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「ごめん、待った?」


明るい店内で本を読みながら待つ恋人の姿を見たとき、今までの苛立ちが嘘みたいに吹っ飛んだ。


「ううん、大丈夫。迎えに来てくれてありがとう」


何時間も待たせたのはこっちなのに、その笑顔からはどんな邪険な感情も汲み取れない。

穏やかな笑顔を浮かべる彼に近付いて、右手にぶら下がっていた袋を奪い取り、車に乗った。



こっそりと袋の中身を確認すると、俺が好きなつまみと、酒が入っていた。

これが好きなんだ、と話したことは無いのに、自分の好みをきちんと理解してくれている。


彼の世界に、俺と言う存在が確かにいる証拠。


ああ、好きなんだな。
きっと、俺のことを、好きなんだろうな。

自惚れかもしれないけれど、口数の多くない彼からは、こういう何気ない形で愛情を汲み取れる。


____


「ね、こっち見て」

「何?」



マンションの駐車場に着くと、車から降りようとする助手席の彼を引き留めた。



チュ

「・・・っ」



ぴく、と動く肩。

軽く触れただけのキスなのに、そんなに頬を赤らめて、そんな表情をして。

一体どこでそんなあざとい技を覚えたのだろう。



「寂しかった?」


無駄な肉が無いすっきりとした頬に手を添えて、顔を近付けた。

小さく息を飲む音が聞こえる。


「そんなこと、ないよ・・・」

「ほんと?これから、今日みたいに急な接待とか増えるかもしれないけど、大丈夫?」

「それは・・・」



ああ、俺は。
何て駄目な奴なんだ。

束縛したい訳じゃない。
苛めたい訳じゃない。

でも、彼をここに繋ぎ止めておきたい。

彼の世界で、俺が一番でありたいと、傲慢にも思ってしまう。


「ほ、ほんとは」

「うん」

「本当は、もっと一緒にいれるって、楽しみにしてたから」

「うん」


「だから、早く。
た、玉森に会いたくなった」



「っ・・・」



ぽとり、と気付いたら彼の目から涙が落ちていた。
俺は腕を伸ばして、彼を胸の中に閉じ込めた。



「さ、寂しかった・・・んっ」

「ごめん、泣かせるつもりはなかった。ごめん。まじで、ごめん」



泣かせてしまったことに対する罪悪感、焦燥感。
その一方で、どうして俺は喜んでいるんだろう。


「き・・・っ」

「え?」

「好き・・・、俺、玉森が、好きなんだよ・・・っ」



腰に回された手が、ぎゅう、と弱々しく俺のシャツを握った。



「ごめん」

「・・・え?」

「今日は、優しくできない」



____

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たいやき(プロフ) - 藤北目当てで読んだのに、『春』が1番好きで、何度も読み返しています!!あまり玉ガヤのBLは意外と読んだことがなかったので新鮮だったのと、『春』の藤ヶ谷くんがどたいぷすぎました。これからも頑張ってください! (2019年10月13日 1時) (レス) id: 2edd79c1bf (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - まきさん» コメント頂いていたのにお返事遅れてしまい大変申し訳ありません(*_*)! 短編の方で思いついた時にでも書いていこうかと思っておりますので、是非楽しみにしていただけると嬉しいです!コメントありがとうございました! (2018年10月22日 17時) (レス) id: 05aff8376d (このIDを非表示/違反報告)
まき(プロフ) - 初めてコメントさせて頂きます。以前に一回読んで、また読みたくなってしまい、読み返しました。とてもかわいい藤ヶ谷さんを見れて、楽しく読ませて頂いてます。『春』の続編を勝手ながら期待しております。 (2018年9月19日 11時) (レス) id: 0555875bff (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 白雪さん» コメントありがとうございます!私の中で藤ヶ谷さんは受けだと思っていて笑 北藤、玉ガヤ大好きなんです笑 そう言っていただけて嬉しいです!ありがとうございます! (2018年8月5日 13時) (レス) id: 99aac380a8 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - わたリンさん» コメントありがとうございます!お返事遅れてしまい大変申し訳ありません( ;∀;)!春の続編いつか書きたいと思っておりますので、楽しみにしていてください! (2018年8月5日 13時) (レス) id: 99aac380a8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2018年4月16日 21時

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