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藤ヶ谷の車の鍵を貰って、エレベーターに乗り込む。
右手に握りしめた鍵の感覚が、顔をにやけさせる。
こういう何気無いことが嬉しい。
人見知りなあいつの中に、俺という存在が許されている証拠。
途中の階でエレベーターが止まると、先ほど取材をした記者が乗り込んできた。
「お疲れ様です。
北山さん、まだ帰られてなかったんですね?」
「あー、楽屋でちょっとウトウトしちゃって」
「そうなんですね。取材、長引かせちゃってすみません」
「いやいや。俺のせいですから」
人良さそうな笑みを浮かべて、本当に申し訳なさそうにこちらに謝ってくる。
「北山さんのお話、すごいリアルで面白いと思ったんですが・・・」
「ああ。まあ、事務所的にはNGですよね、きっと」
「はい。あの後、藤ヶ谷さんも録り直しになっちゃって」
デビューして間もない頃は、事務所の方針でそれぞれのキャラクターが決められて、それに沿わない発言や行動はその度に口煩く注意されてきた。
しかし、最近はそんなことは滅多にない。
「あ、これ言って良いのかな」
「藤ヶ谷、なんて答えたんですか?」
「礼儀正しい子、とか」
なんだ、いつも通りじゃないか。
藤ヶ谷の模範解答。
「それに文字が綺麗な子。挨拶がきちんと出来る子、あとはご飯を美味しそうに食べる子、って答えてましたね」
ふうん、と何気無く相槌を打って聞いていたが、特に録り直しになるような感じはまるでしない。
「これ、なにが駄目だったんですか?」
「えーっと、その」
記者は急に言いにくそうに言葉を詰まらせた。
「なんか、まずかったんですか?」
メンバーのそういう不安なところは、誰であろうと共有しておきたい。今後の活動に活かすためにも、聞いておきたいのだ。
その旨を伝えると、記者は焦ったように答えた。
「そういうことじゃないですよ」
「ええ?もう、教えてくださいよ」
「その、藤ヶ谷さんの解答が。
北山さんをイメージさせちゃうんじゃないか、とのことで・・・」
ああ。なんだ、そういうことか。
ストン、と自分の中で納得して、それでいて急に腹の奥底がくすぐったくなるような感覚に襲われた。
頬がにやけるのを抑えて、記者に挨拶をして、足早にエレベーターから降りて、藤ヶ谷の車へ急いだ。
___
藤ヶ谷。
本当はもっとお前が欲しいよ。
何も言わなくても伝わる、なんて嘘だよ。
本当はもっと聞きたい。
もっと、触りたいし、
もっと、近付きたい。
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たいやき(プロフ) - 藤北目当てで読んだのに、『春』が1番好きで、何度も読み返しています!!あまり玉ガヤのBLは意外と読んだことがなかったので新鮮だったのと、『春』の藤ヶ谷くんがどたいぷすぎました。これからも頑張ってください! (2019年10月13日 1時) (レス) id: 2edd79c1bf (このIDを非表示/違反報告)
魚(プロフ) - まきさん» コメント頂いていたのにお返事遅れてしまい大変申し訳ありません(*_*)! 短編の方で思いついた時にでも書いていこうかと思っておりますので、是非楽しみにしていただけると嬉しいです!コメントありがとうございました! (2018年10月22日 17時) (レス) id: 05aff8376d (このIDを非表示/違反報告)
まき(プロフ) - 初めてコメントさせて頂きます。以前に一回読んで、また読みたくなってしまい、読み返しました。とてもかわいい藤ヶ谷さんを見れて、楽しく読ませて頂いてます。『春』の続編を勝手ながら期待しております。 (2018年9月19日 11時) (レス) id: 0555875bff (このIDを非表示/違反報告)
魚(プロフ) - 白雪さん» コメントありがとうございます!私の中で藤ヶ谷さんは受けだと思っていて笑 北藤、玉ガヤ大好きなんです笑 そう言っていただけて嬉しいです!ありがとうございます! (2018年8月5日 13時) (レス) id: 99aac380a8 (このIDを非表示/違反報告)
魚(プロフ) - わたリンさん» コメントありがとうございます!お返事遅れてしまい大変申し訳ありません( ;∀;)!春の続編いつか書きたいと思っておりますので、楽しみにしていてください! (2018年8月5日 13時) (レス) id: 99aac380a8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:魚 | 作成日時:2018年4月16日 21時