失いたくないから (ページ12)

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「明後日、体育祭だな。」

『そうだね。松村くんも綱引きだよね。』

「佐藤さんもだよね。」

『うん。松村くん運動神経良さそうだからもっと目立つのやると思ってたよ。』

「去年はそうだったんだけど、今年はここからぼーっと観戦するのもいいかなって思ってさ。お客さん気分で。」

そんなことを言う松村くんはなんだか哀愁が漂っている気がした。

高校男子ってそういうの燃えそうなのにな。

やっぱり松村くんは年齢より大人に見える。

一線を引いて物事を見てるみたいな。

そう心の中で言っていたけど、私のほうがそういう節があるなと思った。

でも、私の場合は単にそういう熱いのが好きじゃないだけだから松村くんとは違うなと思う。

「できれば佐藤さんと一緒に観戦したいなって思ってるんだけど。どうかな。」

『わたしと？』

「うん。佐藤Aさんと。」

え？

私はまるでデートの誘いがあったかのように慌てていた。

今年も指定された席でそこそこに応援して隣の子と話して過ごそうと思っていたのに。

私の高校生活にこんな劇的な展開があってもよいのだろうか。

もしかして他の人からしたら普通のことなのかもしれない。

松村くんもごく普通に、自然に聞いてきただけなのに私が過剰に反応しすぎてしまっているのだ。

きっとそうなのだと思えてきた。

こんな感じで悶々と考えていたら隣に松村くんがいて、私の返事を待っているという現状を忘れていた。

「返事がないなら肯定と受け取るよ。綱引きは最初の種目だから終わったらここ集合ね。」

私は松村くんに圧倒されて頷くことしかできなかった。

前にもこんなことがあった気がした。