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とある隊士の成長譚9 ページ39

鬼の激昂する声とは逆に、見えない肉の壁の切り込みが閉じて見えなくなった。どうやら透明だったのではなく壁の向こうの景色をそっくりそのまま映していたらしい。

「フッ!!」

 少女を背負っている背中から着地してしまわないよう細心の注意を払って空中で身体を捻り、なんとか体勢を整えて着地する。

「よし……大丈夫ですか?」
「うん。あと最後のやつ凄かった!!」
「そうですか?ありがとうございます。」

 さて、なんとか脱出することはできたがまだ根本的な解決はしていない。だけどまずはこの少女を家に送り届けねば。

「それにしてももう夜が来たのかな?暗いね。」
「え?そんな馬鹿な。僕がここに来たのは昼前では……んなっ!?」

 少女の言葉にハッとして周囲を見回すと、屋敷だけでなく廃村全体が影に包まれていた。

「何故でしょうか?屋敷からは出たのに……ん?ちょっと待って下さい?鬼は太陽の光が弱点。ならばどうして外の景色を見せることが……まさか!?」

 咄嗟に太陽が浮かんでいる筈の方角に視線を飛ばす。すると、そこには高くそびえ立つ山の頂上があり山の麓と比べて数刻早く日が沈もうとしていた。

「しまった!早く離れなければ!」

降ろそうとしていた少女を背負い直し、一目散に村の出口へと駆け出す。それと同時に辺り一帯が薄暗くなり始めてしまった。

「え?何?どうしちゃったの!?おにーさん!?」
「急いで笛を吹いて下さい!奴らが来ます!!」
「奴ら?さっきの怖いのがまた来るの?」
「すみません、その可能性が高いです。僕がもっと早く気付いていれば!」

 ……血の匂いが刻一刻と強くなっている。屋敷が山の陰に入ったことに気付いたのだろう。もし僕たちが日没までに逃げ切ることができなければ、あの屋敷に居た鬼共は確実に追ってくる。少しでも早く、進まなければ。僕は気合を入れて地面をより一層強く蹴り一気に村の外に出る。そしてそのまま走り続けて、近くの里に繋がる山道へと辿り着いた。

「太陽は……!」

 後ろを振り返ると、山の陰がちょうど村の出入り口を飲み込んだところだった。

「良かった。間に合いました……。」
「間に合ったの?」
「はい。本当は貴女の家までお送りしたいところですが、間もなく夜がやってきます。なので、今夜は私の取った宿で夜を過ごし、明日の早朝にお送りしようと思うのですがどうでしょうか?」
「いいの?」
「ええ。」

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作者名:めがねとかがみ | 作成日時:2020年8月5日 18時

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