とある隊士の成長譚4 ページ34
翌日、朝食を食べてから勘定を済まし宿を出る。
「お帰りの際も是非よって下さいね〜」
そんな声を背に町を後にする。山道に入り、前後に人が居ないことを確認してから走り出す。この山はそこまで高くない。だからこのまま何事もなければ昼過ぎには下山できると考えて良いだろう。
「青波さんの家がある山とは違いますが、朝の山の空気は落ち着くものですね。」
誰に言うわけでもないが、ついそんなことを口に出したくなるほどに風が木々を揺らす音と自分の足音以外聞こえない山の景色を楽しんでいるといつの間にか山頂にまで辿り着いていた。
「なるほど、あの集落が昨日聞いた場所ですね。」
山頂から遠くを見渡すと、登ってきた方と反対側の麓に集落があるのが見えた。
「ということは……あった。確かに大きな廃村ですね。建物もボロボロですが残っているように見えます。これは鬼が潜伏しやすそうな状態ですね。」
そしてそこから周囲の眺望に目を凝らしていると、山頂から集落を挟んで反対側の山の中腹にいくつもの風化した建物が残り柵に囲まれている廃村が見えた。
「ひとまず今日は下山して廃村を下見をしてからあの集落に宿を取ることにしましょう。」
今日やることを決めた僕は山道を無視して一直線に集落のある麓まで雑木林を駆け下りる。そして麓の集落から旅人が出発し始めたことを確認すると、山道に戻り歩き始めた。そのまま歩いて何人かの旅人とすれ違った後、集落の入り口に到着した。少し早いが昼食を食べるために入った茶屋の話では、この集落には宿が一つしかないようだった。泊まる部屋がないのは少々困る。仕方無いから早めに部屋を確保しておこう。
「こんにちは。今晩宿を取りたいのですが。」
「部屋は空いてる。夕飯はいるかい?」
「いえ、一度出かけようと思うのでご飯は持ち運べるものをで済まそうかと。」
「あいよ。」
部屋を確保できた後、集落を出て廃村へと走りはじめる。
「な……!」
何事もなく廃村に着いたものの、僕はそのあまりにも酷い惨状に言葉を失っていた。どの建物も風化してボロボロで、扉が破壊されていた。
「ほとんどの建物に赤黒く乾いた染み、鼻につく鉄が錆びたような匂い……血?ならここは人が居なくなって寂れただけではなかった?いえ、寂れてしまった村で鬼が暴れたと考えた方が自然ですね。」
……今日はもう戻って明日一日ゆっくりと休んでから鬼を斬りに来ましょう。
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作者名:めがねとかがみ | 作成日時:2020年8月5日 18時