とある隊士の誕生譚15 ページ15
仮眠も取って体調は万全。夜もすっかり更け綺麗な三日月が輝いていた。
「さて、見回りますかね。」
もう宿の人達は寝静まっている。宿を出るときは静かにしないと。
窓を開けて窓の上部分を掴み屋根の上に上がる。ざっと周囲を見回すが今のところ不審な部分は見当たらない。五感に意識を集中し付近を探りながら屋根から屋根へと走り回る。半刻程経った頃僅かに悲鳴のようなものが聞こえた。
「そこですか!」
悲鳴が聞こえたであろう方向に走る。いくつかの家をこえて街の中でも中々大きい屋敷に辿り着いた。
「舞、舞?どこだ舞!」
「舞?返事をして頂戴?どこに行ったの?」
「これは……恐らくこの家の子供の名でしょうか?」
居なくなった子の親であろう男女が「舞」という子のことを探しているようだった。
「まだそう遠くには逃げていないはずです。」
探し出す。なんとしても。そう心の中で呟きそして肌の感覚と視覚に全意識を集中させる。
「……………!」
広い庭の木の影に気配を感じる。
「水の呼吸弐ノ型、水車!」
影を斬りつけると幼い娘が放り出された。そして影から距離を取りながらその娘を受け止め、屋根の上に下がる。
「グァァ!!」
「見つけました。隠れんぼはお終いです。」
「イッテェなこの野郎……」
「怒るのは結構ですが獲物から手を離すとは頭の方は大して進化してないようですね。」
「返せ!!」
「嫌ですよ。さて、この娘の親御さんが心配しているので早めに決着を付けるとしましょうか。」
「……ハッハァ!そんな釣れねえこと言うんじゃねえよぉ!!」
軽く挑発すると速攻乗ってきた鬼は勢い良く飛びかかって来た。
「開き直るとは……まあ好都合です。」
「ゴチャゴチャうるせぇ!死ねぇ!」
抱えていた娘をそっと下ろして寝かせ、少し飛び上がり勢い良く刀を振り下ろす。
「水の呼吸捌ノ型、滝壺。」
流麗な太刀筋で振られた刀により、鬼の首は斬られ、燃え始めていた。
「これでよし。さて、あの娘を縁側に寝かせたら戻りましょう。」
そして刀に付いた血を払い鞘に戻し、攫われていた娘を抱え、縁側まで歩く。
「鬼は倒しました。これでもう安心ですよ。」
そう声を掛けながら縁側に寝かせると、怯えきったような表情で眠っていた娘の顔が安心したように緩んだ。
「守れてよかったです。もう鬼に出会わないことを願っています。」
鬼を斬ることに成功した僕は宿に戻り、再び眠りにつくのだった。
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作者名:めがねとかがみ | 作成日時:2020年8月5日 18時