湖での拾いもの ページ7
戻って来たレナが抱えていたのは一人の人族のまだかなり若い男だった。
「……人族、だな。」
「人族、ですね。」
「姫様、抵抗されると面倒です。このまま殺してしまいましょう。」
「……レナ、ステータスを見て。」
「ハッ!〈看破〉」
レナが看破のスキルを使い人族のステータスを確認している。最初はいつもどうりの無表情だったが、急に引きつった表情になった。
「レナ、どうしたの?」
「称号が……ゆ、勇者、です。しかし伝承にあったほど強く無いどころか、まだレベルすら上がってません。」
「勇者?あの?」
「はい。勇者です。」
「勇者だと?なら尚更今ここで殺すべきです!」
「そうです!いくらレベルが低くても勇者は勇者!ここで見逃せば必ず我々の前に敵として現れます!歴代勇者に殺された魔族の数を知らない訳では無いでしょう!?」
家臣達がうるさい。
「レナ、他に称号は?」
「えっと……召喚者、とあります。」
「召喚者、つまり異世界から来た人族?」
「その筈です。」
「……とりあえず拘束して。連れて帰る。」
「ハッ!」
「殺さないのですか!?」
「ソイツは勇者です!我々魔族の宿敵です!」
「うるさい。」
「ッ……!!」
納得して無い方が多いみたい。まあ仕方ない。私の前の魔王……お父様も、お母様もその側近も四天王も。皆四十五年前の人族との戦争で勇者に殺されてしまったのだから。その頃の私はまだ生まれたばかりで奇跡的に見つからなかった。私は生き残った魔族たちに育てられた。
だから皆、勇者を憎んでる。皆お父様やお母様、四天王の人達が大好きだった。私は魔王としてはまだ若い。魔族の寿命は約200年。私を育ててくれた魔族の多くはお父様に仕えていたらしく、娘である私にも良くしてくれる。
勇者に、人族に復讐したいのを我慢してくれてる。もうあの時生きてた人族は誰もいないのに、復讐が成功しても、きっと虚しいだけ。
だから、復讐なんてさせない。もしまた人族との戦争が起こったら、私の命と引き換えにしてでも被害の少ない内に終わらせる。
「……皆、この勇者から話を聞こう?なんで勇者がいるのか、なんで、この人がここに来たのか、全部。皆、分かってくれる?」
一瞬、皆驚いたように黙っていたけれど、その後に皆が笑顔になった。
「申し訳ありません、陛下。」
「勇者と聞き、冷静さを欠いておりました。」
「流石です、陛下。」
「うん。」
良かった。皆分かってくれた。
私は魔王、皆を守る存在。
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作者名:めがねとかがみ | 作成日時:2020年9月15日 23時