魔王の勇者 (ページ31)

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部屋を選ぶには…… ページ31

「さて、どこにするか決まりましたかな？」
「すみません、もう少し考えさせて下さふい。」
「ふむ。今日は訓練もしませんからな。ゆっくりと選んでくだされ。」

　この剣翁の館はあまりにも広い。まず、正面から見えた五本の塔。そして五本の塔の内、端の二本から等間隔に九本ずつ。つまりこの館は計二十四本の塔に囲まれている。さらに塔の間を繋ぐ通路それぞれが教室を五個程並べて少し余るぐらいの幅と長さがある。

「……やっぱり広すぎる。」
「そうですな。ただ、ここは万が一の際の避難場所にもなりうるため魔王城に近い備えがされているので全くの無駄ということはないのですぞ。」
「そうなんですね……」

　どこまで思い出したっけ？あぁ、外側だけか。本館は確か正面の塔の外側から二番目の塔をそれぞれ結んだくらいの幅と、側面の塔の後ろから三番目の塔と手前から二番目の塔を結んだ奥行きになっている。そして外側の塔との連絡通路を通って分かったことだが、わざわざ外側と本館の間に広い空間が空いているのは使用人達が使う畑や訓練場としてのスペース確保の為だった。

　さらに本館の中心には塔一本とそれに連なる通路分の中庭があった。そこを基準にして正面側は客間やホール等の一般的な屋敷に必要な施設が揃っており、反対に奥側は魔導具を使って様々な環境を再現した訓練部屋がいくつも存在していた。訓練部屋は氷点下なのでは？と感じるぐらい寒い部屋や火山の火口付近のような灼熱の部屋、屋内にも関わらず樹木が沢山生えているジャングルのような部屋、部屋全体の重力が極端に重かったり軽かったりする部屋などとても一度では覚えきれない程様々な部屋があった。

　……まぁ、訓練部屋に住む気は無いので今は置いておこう。どの客間も間取りはほぼ同じで部屋ごとの想定されている人数か、家具の配置が左右が反転しているぐらいしか差が無いのだ。

「あれ？精々想定されている人数が多い部屋を取れば部屋が大きくなるぐらいしか選ぶ基準無い？」
「そうとも言えますな。」

　バルトナーさんは綺麗に整えられた顎髭をいじりながら変わらずニコニコと微笑んでいた。

「じゃあ、屋敷の中庭に近いこの部屋にします。」
「分かりましたぞ。誰かおるか？」
「はい、ここに。」

　僕が館の案内図を指さして伝えると、バルトナーさんは頷いて手を叩いた。すると、メイド服を来た何者かが突然目の前に現れた。