1ヶ月桜魔皇国を旅した話三巻 (ページ9)

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桜魔皇国17日目【夜】2 ページ9

「なんだ？」
咄嗟に距離を置いて様子を見る。
煙は広がったと思うと、物凄い勢いでこちらに向かって来た。
「桜月流！【護】月帝の盾！」
壁を作り、煙を回避する。

したと思われた。
煙は壁を回り込んで私の背後に来る。
「なんだその軌道？！」
気づいた時にはもう遅く、煙は私を覆い尽くした。
「うわっ！」
思わず目を瞑った。

しばらくして目を開けると、煙は無くなっていた。
のどかな村の景色が鮮明に見えた。
「な、何だったんだ？無傷だぞ？」
振り返ると、ただの鹿の死体がそこにはあった。
「祓魔していないのに…普通の鹿に？」

私は鹿を赤い花弁に変えて、空に飛ばした。
空に舞う花弁を見て、私はふと思い出した。
「…私が魔になる未来」
私は、なるほどねと思った。
「家に帰るのはやめよう」

私は村長に祓魔したと報告して、村をさっさと出た。
山道の途中で、私はどこに向かおうか悩んだ。
北の方に行き、そこそこ強い魔と混ざって置こうかと考えていた。
時間が経つ事に、身体の違和感に気付いてくる。
確実にいるとわかる。

どうしようかと思っていると、茂みからひょこっとあの狐の魔の子が顔を出した。
「何故ここに？散歩中か？遠いだろう…」
私は魔の頭を撫でて、微笑んで状況を教えた。
通じているとは思っていないが、とりあえず誰かに聞いて欲しかった。

「…あぁそうだ、そなたにお使いを頼んでいいか？」
言葉が通じているのか、魔はこくりと頷いた。
私は黒闇天から貰った護符の裏に、持ち歩いていた筆ペンを使って手紙を書いた。
幅が限られているので、必要最低限の事だけ書いた。

村の魔は憑依型だった。
私の中に入った。
未来通り、でも抗う。
なにも壊させない。

それだけ書いて、護符を魔の足首に結んだ。
「これを黒闇天の元へ。道は示しておく、月光の導きのままに行けばたどり着く…お願いしていいか？」
魔は頷いて、森の茂みにまた帰って行った。
「…いい子だ」
私はそう呟いて、急いで北の方に向かった。

北の山奥、強い魔の生息地と言われている場所に無我夢中で走った。
月に照らされて、私は走った。
中の魔が、だんだん大きくなっていくのを感じる。
必死に抑えて、北の山奥に向かってひたすらに走った。

「ありがとう、みんな。私変われて嬉しかった…絶対に抗ってみせるから、絶対また帰ってくるから！」
涙を零しながら、私は笑って走った。
全ては、月光の導くままだった。