1ヶ月桜魔皇国を旅した話三巻 (ページ39)

今日:22 hit、昨日:0 hit、合計:14,771 hit

桜魔皇国23日目【夜】ページ39

私は自宅の窓から一人、庭の桜の木を眺めていた。
夜桜というのもまた、昼とは違う美しさがある。
私はそれをただ、眺めていた。
風になびく自分の漆黒の髪を、緩く結んだ。

私の髪は今、結んでいない時だと太ももくらいまである。
何せ平安の生まれ、髪を切るのは僧のみだった。
今の時代だと、私の髪は凄く長いのだろう。
しかし当時は私はかなり短い方だった。
動いてると髪が邪魔だが、姫様にも言われてあまり切れなかった。
おかげで、当時から見たらかなり中間的な髪の長さを保っていた。

長い髪を見て、少し悩んだ。
「切っても…良いだろうか」
髪を切らなかったのは、姫様の事もあった。
姫様が褒めてくれていたというのがあった。
誰よりも綺麗な黒でさらさらとしているのに、あなたが姫だったら絶対恋文が溢れるほどくるのにと。

それが嬉しくて、もったいぶっていた。
また伸びるとは分かっていても、その度に切るのだろう。
だから切る事をもったいぶっていた。
「区切りもついたし…姫様も髪短くなられてたし…」
私は決心して、小刀を取り出した。

残す長さを決めて、その付近で紙紐を結ぶ。
髪束を持って、私は深呼吸をした。
「ありがとうございます…姫様…」
そう呟いて、私はスパンと髪を斬った。
斬った後、私はゆっくり切れた髪束を見た。

上質な素材で作られた毛筆の様だった。
姫様の言う通り、本当に髪質が良かった。
私はそれを握りしめて、また窓に向かった。
そうして紙紐を解いて、パッと外に放り投げた。
髪はたちまち桜の花びらに変わり、宙を舞った。

夜空に舞う桜は、何よりも美しいと思った。
「これでまた一歩、前に進めるだろうか」
軽くなった髪を撫で、私は小さく笑った。
「本当にありがとうございました…姫様」
私は窓を閉めて、もう寝ることにした。