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桜魔皇国21日目【午前】 ページ29

「瑠璃さん…もう私の事忘れただろうな」
桜の花を添えて、私は俯いた。
死人の声は聞こえないから真実は分からない。
けど、私の存在そのものが異質だったんだ。
元に戻ったという事は、私も本当は瑠璃さんに出会う事は無かっただろう。

「でも家紋はここにずっとあるんだよな…変だよな」
私はずっと胸に付けていた、瑠璃さんの家紋を触る。
「…忘れてしまったなら、私が持っているのもおかしな話か」
役目も終わった、祓魔師としての私はもう居ない。
私は胸から家紋を外した。

「僅かな間、在坂と名乗る事を許してくれてありがとう」
私は家紋を供え物と一緒に置いた。
最後に線香をつけて、手を合わせて祈った。
瑠璃さんが生まれ変わって、幸せになることを祈った。
「…また会う日まで」
そう言って私は瑠璃さんの墓を後にした。

墓地から出ようとすると、向こうから景さんが来ていた。
私は隠れるか迷ったが、前に進むことにした。
すれ違いざま、景さんが私に挨拶をしようとした。
縁を持ってはいけないと思い、私は景さんを一瞥もすること無く去って行った。
景さんはどんな顔をしているのだろうかと、そればかりが気になってしまった。

次に、あの魔の親子の元へ向かう事にした。
そこへ向かう途中に、晴さんの屋敷の前を通った。
私は家の前で足を止めて晴さんの屋敷を眺めた。
「…随分世話になったな」
私はハハッと小さく笑って、道の先に進んだ。

しばらくして、親子の元にたどり着いた。
そこに居たのは、親子では無く晴さんだった。
「…え?」
思わず立ち止まって、私はそこに棒立ちした。
音で気づいた晴さんがこちらを振り向いた。

「え?君は?」
「…なぁ、ここに魔はいなかったか?」
「それなら今…祓魔しちゃったけど、魔の親子」
「…!」
私は目を丸くして、震える手を抑えた。
なるべく平然を装って、私は言った。

「そうか…なら…良いんだ」
声を震わせて、私は足早にその場を去った。
晴さんの呼び止める声が聞こえたが、私は止まらなかった。
そうだ、当たり前だ。
あの親子を守る人がいなくなったんだ。

瑠璃さんはもう来ないなら、親子を誰が守るのだろう。
私は無かった事になっているなら、そうだ。
私は無我夢中で走り、人気のない公園の椅子に腰を下ろした。
「はぁ…そうだよな、居ないもんな」
私は空を見上げた。

空は青く澄み渡っていて、舞っている桜がよく似合っていた。
「…綺麗だ」
そう呟いて、ため息をついた。

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作者名:神里 | 作成日時:2022年3月23日 8時

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