戀

崩壊する私の彼 ページ4

「おさむ」

侑と治、2人が話している時に、さっとそう呼んだ。にこり、と笑って見せると、侑は「A」と呟いただけだ。

侑と私は1組で、治は2組。
廊下で話す私たちを、教室のドアのところに立っているララちゃんが見ていた。


「教科書貸して、英語」
「ええで、待ってな」
「一緒に行く」
「なんやそれ。別にええけど」


治と教室に入る前、侑が「俺ぼっちやん」とかなんとか言ってて、「やっぱ待っとく」と言いそうになったのをぐっと抑えた。

治の席まで行くと、ぴたりと彼が動きを止めた。


「で」
「ん？」
「ほんまに忘れたん？ 英語の教科書」
「ごめん、ララちゃんがどう動くか見たくて、嘘ついた」
「やろうなあと思ったわ」


くは、と笑うと、「でも貸したる」と教科書を渡された。別に大丈夫だったのに。

ふと視線を上げると、さっきまでドアのところにいたララちゃんの姿がない。かわいいから大人しくて控えめな子だと思っていた。けれども、治の言う通りなにか「おもしろいところ」というのが彼女にはあるのだろう。


侑のうそつき。
従順な子の方が扱いやすくていいって言ってたくせに。


ぐ、と唇を噛んだ後、教室を出ると2人が廊下に並んで話していた。これ、私たちが戻らなくてもいいんだろうな。

そう思うと悲しくなる、寂しくなる。


「なんなん侑くん眉間にしわ寄せて。治安悪い顔やわ」
「うっさいわ」
「うーわ彼女にそんなこと言うんや」
「愛や愛」
「テキトーやなあ」


ああ、崩れていく。
私の隣で笑うはずだった侑が崩壊していく。

それを見ている私の気持ちは形容しがたいものがあった。こうなることを想像したことがなかったから。
見るに耐えない。そう、それだ。言い表すとしたらそう。



「気ぃ悪」

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