戀

感情の名前 ページ18

その言葉は反射で出たようなものだった。
何も考えず、無意識にぽろりと。

恋とは何か、好きとは何か。それを定義づけるのは無理だけれど、侑のそれが違うのだけはわかる。


「支配やん、それって。……洗脳、やん」


自分勝手で人の心を弄んで、そうまでして私を想うのは、彼の中の支配欲や独占欲を満たすためで。それは内容は違えど、彼にとって私だって駒になるのだ。そう感じても何らおかしくない。


「全てはお前を手に入れるためや、A」


恋、には、同じ意味を持ちながら違う形のものがある。
それは『戀(コイ)』だ。これを簡略化したものが「恋」である。


恋か、執着か、独占か、支配か、依存か、……愛か


そのどれもが含まれるがどれもが当てはまらない。
私たちはどこかで間違った。私たちは両想いであったのに、私は盲目になってしまって侑は想いの寄せ方を間違えてしまった。

あくまでこれは私の意見だけれど、私たちの糸はもう赤くないし、もう解けることはないのだと思う。恋というにはあまりにも複雑に絡みすぎたのだ。

それこそ、この感情に名前をつけるのだとしたら。


──戀


この言葉が、きっと正しい。

好きだった。侑のことが、大好きだった。
私のことを大事にしてくれて、優しく思ってくれた。私も彼にしがみついた。

愛し合う、という言葉は互いが同じ量の恋情を相手に寄せていて、相手のことを深く考えられる関係である時に使われると思う。
そう思うと、私たちの間のものはきっと愛になることはない。


恋の種類が違っていた。お互い、すれ違っていた。


恋は1人でするもの。愛は2人でするもの。
大学の教授はそう言っていた。

違うと思う人もいれば、その通りだと思う人もいると思うけれど、少なくとも私は、今のこの状態は1人で勝手にしんどくなっているものだと思うから。


「ごめん、私、侑のものにはなられへん」


このままだと、ダメになってしまうから。


手繰り寄せてたどり着いた。
その間にいくつも玉結びができてしまった。
このまま結び続けても、いずれちぎれてしまうだけ。






私は、この戀を断ち切ることを決めた。

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