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一人でバーに通う三度目の夜が来た。
時刻はもう真ん中を超えていて、終電で街に出てきた。
カラン、と乾いた鐘が鳴り、いつもの席に座る。
「ほんっと、無防備だね」
「あえてそうしてるのだとしたら、無防備じゃないですよ」
「ははっ、確かにそうだね」
ここで彼とゆっくり飲むのもいいけれど、今日はもう、長く飲んだ味を捨てて、新しいものに手をつける気でいた。
「イスラデピノスで、お願いします」
及川さんはそれが分かっていたのか、なにも言わなかった。
ただ、それに口付ける私を見つめていた。彼も同じようにイスラデピノスを手に持って。
フルーティーな香りと甘さが広がり、本当にジュースみたいだと思っていたとき、グレープフルーツの酸味と苦味を感じた。
レビューに書いてあった通りだ。
「どうですか、イスラデピノスは」
「おいしい、です」
でも、と続ける。
はやくも熱くなりつつある体は、お酒のせいかこれからのことを考えたせいか、私自身にも分からない。
「くらくら、しますね」
くっと飲みきった私を見て、お金だけ払って、彼は私の頭をくしゃりと撫でた。
するりと繋がれたら手のひらは、熱い。絡む指は、どこか艶かしい。
「ごちそうさまでした」
いつものようにそう挨拶してバーを出ると、夜風が頬を撫でた。
きゅうっと繋ぐ力が強くなる。
「いつも、見てたんだ、Aちゃんのこと」
「え、？」
及川さんを見つめるも、彼はまっすぐ前を向いたまま。綺麗な横顔が街の明かりのなかで良く映えている。
「彼氏といつもきてたのは知ってたよ」
「そう、なんですか」
「ずっと、狙ってた」
そこでようやく目があった。視線が絡み、捕まえられる。彼は私を捕まえるのが得意らしい。
「綺麗な姿勢は大人っぽいのに、飲むのはいつもオレンジジュースで。いただきまずごちそうさまも律儀に言う」
「本当に、ずっと？」
「うん、ずっと、気になってた」
彼は、道端で私を抱きしめた。
それに答えるようすぐに抱きしめ返すと、途端そこは私たちだけの世界になるようだった。
「捕まってくれて、ありがとうね」
お礼を言うのはこちらだと、この前にも言ったことを呟いた。
私だって、あの終電を逃した日から、ずっと、彼を捕まえようとしていた。
手ごたえだけはずっとあった。それは、彼も私を捕まえようとしていたから。
「私の方こそ、捕まえてくれてありがとうございます」
．
イスラデピノス
「無防備」「物事に手応えを感じる情熱家」
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ぴーなつ(プロフ) - 立夏＠受験いやぁさん» 走り書きのようになってしまったので至らぬ点もありましたが、そのように言っていただいて嬉しいです（ ; ; ）ありがとうございます！ (2018年10月28日 21時) (
レス) id: 9ab381c422 (このIDを非表示/違反報告)
ぴーなつ(プロフ) - チャイさん» 最高にうまい褒め言葉をいただき光栄です！！ 及川徹氏恐ろしや、、と感じていただければ幸いです！ありがとうございます！ (2018年10月28日 21時) (レス) id: 9ab381c422 (このIDを非表示/違反報告)
立夏＠受験いやぁ(プロフ) - 短編なのにこんなに読み応えのある作品が書けるなんて凄いです！これからも、頑張って下さい！ (2018年10月27日 18時) (レス) id: 9902dda59f (このIDを非表示/違反報告)
チャイ(プロフ) - すみません、カクテルって本当に素敵な飲み物なのに、このお話を読んで興奮のあまりビールが飲みたくなりました。本当に最高でした。及川徹万歳です。 (2018年10月27日 18時) (レス) id: 26170b8b11 (このIDを非表示/違反報告)
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