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アルバイトで上手くいかなくて、何となく遊びたい気分になった、その日。
下宿をして都内に出てきたのはいいけれど、夜の街明かりは私にはまだ眩しすぎた。
終電を過ぎることなんてなかったし、徹夜をすることもなかった。そんな生活が彼氏をきっかけに変わって、バーだなんて洒落たところに行くようになって。
そもそもバーなんて実在するんだ、と思っていたくらいだ。
街行く人の歩みははやい。耳元で風が鳴って、呼ばれるようにつま先の方向を変えた。
遊びたくなった。一人で終電をわざと逃したのは初めてで、駅のホームを去った電車を横断歩道の上で見送る。
夜遊び、というのをしたことがなかった。
欲求こそあったが、都会は歩くだけで居酒屋のキャッチに捕まるし、待ち合わせをしているだけでナンパをされる。それがうんざりだった。
今の私にはそれから守ってくれる人はいないけれど、それらをかわしてバーへと向かう。
早歩きのせいで少し乱れた呼吸のまま、木塗りのドアにピッタリと合ったくすんだ金のドアノブをひねった。
柔らかい茶色の髪が視界に入る。
薄暗い照明の下、彼の甘い双眼が私を捉えた。
「……オレンジジュース、一つ」
まだ、私は子供のままでいたい。
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彼は相変わらずイスラデピノスだった。
といっても、私が見た目で判断できるわけもなく、じっと見ていると及川さんが微笑んでそう教えてくれたのだ。
「家近いの?」
「いえ、電車です」
「もうないよね」
「……夜遊びしたくなっちゃって」
言葉にした途端悪いことをしている気持ちになって、俯いてしまう。
そうすると、軽い笑い声が耳に入って、顔を上げた。
「素直だね」
夜遊びに乾杯、なんて冗談を言って、及川さんはカウンターに置かれた私のオレンジジュースのグラスと彼のグラスをチン、と合わせた。
あざといかなと思いながらも、両手でグラスを持ってチビチビと飲む。
これからどうするか何も考えずにここにきたというのもあり、一気に飲むのは気が引けた、というのもある。
「一緒に呑み明かす?」
「……はい」
「おっ、いいね」
これを機に彼のことを知りたいと思ったし、さらに言うなら、お酒を口にするのもありかもしれない。
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ぴーなつ(プロフ) - 立夏@受験いやぁさん» 走り書きのようになってしまったので至らぬ点もありましたが、そのように言っていただいて嬉しいです( ; ; )ありがとうございます! (2018年10月28日 21時) (レス) id: 9ab381c422 (このIDを非表示/違反報告)
ぴーなつ(プロフ) - チャイさん» 最高にうまい褒め言葉をいただき光栄です!! 及川徹氏恐ろしや、、と感じていただければ幸いです!ありがとうございます! (2018年10月28日 21時) (レス) id: 9ab381c422 (このIDを非表示/違反報告)
立夏@受験いやぁ(プロフ) - 短編なのにこんなに読み応えのある作品が書けるなんて凄いです!これからも、頑張って下さい! (2018年10月27日 18時) (レス) id: 9902dda59f (このIDを非表示/違反報告)
チャイ(プロフ) - すみません、カクテルって本当に素敵な飲み物なのに、このお話を読んで興奮のあまりビールが飲みたくなりました。本当に最高でした。及川徹万歳です。 (2018年10月27日 18時) (レス) id: 26170b8b11 (このIDを非表示/違反報告)
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