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全て鮮明に覚えている。
細い腕も、長い髪も。


怯えていた瞳が徐々に穏やかに優しくなるのを見て「まずい」と子供ながらに思った感覚は、今でも時折言葉にできない恐怖として襲いかかる。


「宮侑」


抑揚も温度も心も何もない、ただの囚人を呼ぶ彼女の声に、必死にポーカーフェイスを保つのだ。
だって彼女は覚えていない。

それでも記憶の片隅に残っていた正義だけは曲がることなく、職についた彼女を知った時は、なぜか嬉しくなった。


ーー思い出してはいけないのだ


彼女の記憶の一番奥底のカギを握るのは俺と、あと、


「……もうええで、ええんやで。……治」


もう俺の願いのために何もしてくれるなよ、


手首についた重い枷と鎖を携えて、セメントの壁に手を這わせた。
耳をそばだてても、何も聞こえない。


冷たくて静かで、暗くて、まるで灰色の曇り空みたいな場所。
これから先陽の光を浴びることができない覚悟でここに入ったし、そのくらいのことをした。


俺は一生この檻の中。
それでもいい、それでよかった。


そうすれば彼女のそばにいられるし、彼女と穏やかに残酷な事件を解決して行くのだ。
この閉ざされた世界で、ずっとそうしていく。


ひとつだけ気がかりなのは、片割れだった。


「ごめんな治、またお前を一人にしてもた……」


でもそれが正しいのだ。こうすることでしか負の連鎖は止められなかったのだ。
そう、信じている。


「ラベリング理論、代理ミュンヒハウゼン症候群……。なんの因果やねん」


そわそわしてしまう。
いつかあの事件が来るのではないかと。そうなったとき、俺はどうしたらいいのだろうか。

あの母親にイライラとしていた彼女を思い出した。子供を自身のために見殺しにした醜い女だと、らしくもなく散々な言いようだった。


「Aおねーさん、」


俺がきっと守ってみせる。この秘密の記憶も、彼女自身も。




思えば俺の中には幼い頃から獣が住み着いていたのかもしれない。
ずっとずっと抑えていた衝動が再び込み上げてきたその時、初めて自覚したのだ。


ああ、俺の獣を止めていたのは片割れだったのか、と。

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ぴーなつ(プロフ) - はるしおさん» ありがとうございます! 展開に重きを置きすぎて他の描写がうまくできていない気がしていたので、そのようにお言葉頂き光栄です……! 更新頑張ります!!!! (2018年9月19日 17時) (レス) id: 9ab381c422 (このIDを非表示/違反報告)
はるしお(プロフ) - すごいです。とても。展開や描写やキャラの心情や、もうすごいです。語彙力が追い付かないのが本当に悔やまれます。変な言葉しか出て来なくてすみません。更新楽しみにしております! (2018年9月19日 13時) (レス) id: 12b75cb48a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ぴーなつ | 作者ホームページ:http  
作成日時:2018年9月4日 21時

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