3. 教師 ページ4
「ねぇ、荷物大丈夫？」
突然彼にそう問われ、ハッと我に返る。そして、さっき自分が じゅれい に投げたカバンの行方を探す。
見つけたカバンはもう無惨な姿になっていた。散らばった書類もぐちゃぐちゃだ。
ショックで言うこともなく、ただ散らばった紙を集め始める。
私の視界の隅で 男性も身をかがめた。 書類の残骸から1枚の紙を拾い上げると、そのシワを伸ばす。
「履歴書じゃん。就活中か」
『そうですね。本当は 今から面接で 』
「あちゃー。それはやばいね」
男性は 変わらず軽く私に言葉を返した。
目元が覆われているのに、紙が見えるんだな。なんて疑問が浮かんだが、質問する勇気も 今は元気もなかった。
するとまた、男性に話しかけられる。
「えーっと、AAさんね。22歳 若いねぇ 新卒！｣
個人情報の塊 を手に持ったまま、彼は書かれた私の名前などを呟いた。
ちょっと。いや。
すごく嫌な感じだな。 気持ちがムッと顔に出てしまう。
『なら、アナタのお名前は？』
「僕はねぇ グッド・ルッキング・ガイ 」
『はぁ。日本語お上手ですね』
「でっしょ〜、ネイティブだもん」
あからさまな偽名に 冗談に うんざりだ。
でも、その緩い雰囲気に
さっきまでの恐怖心は溶けた気がする。
すると、彼はニヤッと口元を緩め 履歴書から顔を上げた。
「へぇ、高校教員の免許取ったんだ。教員志望？」
『まぁ、今は塾講師志望ですね』
「あー、塾かぁ。 ちなみに僕 教師だよ」
『え？』
驚きで 思わず単発な返事が口から出てしまった。
つい相手を凝視してしまう。
「だから僕 教師だよ。一般の教員免許が必要なものは教えてないから。特別だけどね」
『特別と言うのは。さっきの対 じゅれい のお助け魔法でも教えてるんですか』
「まー、うん。そんな所」
『からかってます？』
冗談を言えば、相手が肯定するものだから。
ますますよく分からない。
その後も 相手から聞き馴染みのない言葉を大量に言われて困った。
じゅれい についてもっと聞きたかったのだが、相手の話は分かりそうにないと諦めてしまいたくなる。
そういえば、今日の面接はもう無理だな。
スーツはさっきの拍子に汚れ、履歴書もボロボロ。時間だって遅れるだろう。
今日の面接先が最後の望だったのに。
思い出してしまえば どっと気分が下がる。
そんな時、聞こえてきた言葉に耳を疑った。
「ねぇ、塾志望やめてさ 僕の働いている学校に来ない？」
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作者名：あまね | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/easye1/
作成日時：2023年9月19日 21時
