【和/泉/三/月】3日後の行方【ア/イ/ナ/ナ】 (ページ9)

今日:3 hit、昨日:1 hit、合計:28,968 hit

#8 ページ9

それから急いで学校に着いた。遅刻ギリギリだったが、教室に入るとき、ホームルームのために静かに座っているクラスメイトからの注目を受けた。三月は気にしていたようだが、それが何だ、と私はずけずけと入っていき、席につく。

　私の席は、窓際の、季節の影響が受けやすい席だった。冬には寒く、夏は暑い。
今は雪がチラチラと降っていたので、寒さと教室の暖かさの差のせいで水蒸気が窓に張り付いている。いや、気温差のせいでというより、私が息を吐いているからだろう。窓へと身体を乗り出し、はぁ、と息を吐き掛けて、窓が白くなる。きゅ、っと指でうさぎの絵を書いた。

「ーー相談室に来るようにって、聞いてんのか」

　くすくす、と声が聞こえ、何が面白いのかと教壇を見ると担任が私を見て呆れている。ああ、どうやら私は何かで呼び出しを食らったのか。心当たりがあるような、ないような。というか、ホームルームはもう始まったのか、本当にギリギリに学校に着いたな。
袖でうさぎの絵を消して、もう一度担任の話を聞く。

「進路のこと。今度こそ決めてもらうぞー」

まだなのか、のような感じの声が教室の中で小さくどよめく。皆は進路は三年になる前から決めていて、こんなに遅いのは私だけだった。皆が真面目に大学や、就職先を希望している間に、私は『お嫁さん』などとふざけたことを言って担任を困らせている。

　親にも怒られて、一応なんとなく希望は固めた。それは本心ではなく、親に言われて適当に作り上げた建前。第三希望は単純作業の工場の仕事。第二希望は、私でも行けるような大学。第一希望は、得意ではないが好きな絵の専門学校。絵の専門学校ならある程度勉強ができなくても、私の絵で入学の合否が決まるため、まあ行けるだろうという甘い親の考えだ。

こうやって進路を決めたら、本格的に大人になる準備が始まった気がして、落ち着かない。三月も将来アイドルになったら、会えなくなるのかな。

ーー放課後。

「ほう、絵が得意」

「いや、得意ってわけじゃ……」

　初めて出した進路の答えに担任はホッとした表情を見せる。夕日が差し込む相談室のなか、私はとんとんと進めようとする担任に困惑していた。

「じゃあ進めとくからな」

「えっ……はい」

担任は立ち上がって相談室を出る。やっとだ、と言う笑顔の彼に、「違うんです」という本心は言えなかった。

　一人、取り残された。それは、精神的にも。