【和/泉/三/月】3日後の行方【ア/イ/ナ/ナ】 (ページ50)

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電車で一時間。特に会話もせず海に来た。メンバーの中で一番トーク力があると言われても、泣いている女性と一緒に会話できることは無かった。

「海だーっ！」

　手を引いて海岸へ走る。勢いよく走ったので砂に足を取られそうになった。それは彼女も同じなようで、おっと、という声が後ろから聞こえる。そこは手を強く握って助け合った。
　今、手を繋いでいるのは、オレが一方的に電車の中で彼女の手を握ったからだ。見ていないうちに彼女がふと何処かへ行ってしまう気がして。まるで枷のように、ずっと離さなかった。

　見えるのは、不規則に流れる波に雲ひとつない空。太陽の光に照らされて、キラキラと光る海。暑いけれど、この景色にいくらか彼女の表情も和らいだような気がする。

「ありがとう」

　乾いた砂浜の上に座ると、彼女は言った。泣いた跡が目に残っているものの、その顔は優しい笑みだった。ホッと安心する。やっと笑ってくれた。

「どういたしまして」

　安心したからなのかオレも自然に涙が出てくる。悲しい涙じゃなかった、けれど彼女にはこの泣き顔は見せたくない。恥ずかしくて笑いながら顔を背ける。

「耳赤いよ」

意地悪な笑い声が聞こえてくる。自分も泣いていたくせに、と思うが、意地悪ができるくらい元気になったということだろう。いつものAになってよかった。

「そういうとこ今気づくなよ……！」

余計に顔が熱くなって反論するが、彼女の笑い声が大きくなった。ムキになってそっちに顔を向ける。

その、一瞬のうちに、唇を重ねた。