【和/泉/三/月】3日後の行方【ア/イ/ナ/ナ】 (ページ49)

今日:14 hit、昨日:1 hit、合計:28,979 hit

#48 ページ49

「ちょ、待って」

気づいた瞬間、彼女は逃げる素振りを見せたので咄嗟に右腕を掴む。振りほどかれそうになったが、離さなかった。

「A」

周りに何人か人がいることを考慮して小さい声で言い、席につく。彼女も隣に座らせておいた。問いかけに無言を貫いた彼女は大人しく座ったものの、オレと十センチほどの距離をとった。

「これ、何」

　何を話していいか分からず、とりあえず彼女の家に置いてあったオレ宛の手紙を取り出した。そして彼女に突きつける。

『三月へ

最期まで迷惑かけてごめんね、だいすきだよ

　 A』

　便箋には前に文字を書いたのかうっすら消した跡が見える。その上にこの震えた文字で書いたようだ。……最期まで、ってなんだよ。だいすきだよ、ってなんだよ。このまま居なくなるなんてずるいだろ。そう聞きたいことがたくさんあった。でも横目に見える彼女の切ない表情で聞く気が失せた。

　彼女はこの手紙から目を逸らし、俯いた。ビニール袋を強く握りしめるので、カサカサ、と音がなる。ちらりと見えた中身はどうやらロープのようだ。

　本気だったんだ、と思って背筋がゾクリとする。それを見た瞬間、聞いて責めるだけじゃなくて、癒やしてあげなきゃ、と思った。今オレが出来る最大限のことをしてあげないと。

「……森じゃなくてさ、海行こうぜ」

　遠いけれど、時間はある。オレは笑顔でそう言った。本当はもう泣きそうだけれど、この暗い雰囲気を打ち消したかった。
彼女はチラリとこちらを見るが、頷きもせず、否定もせず、ただ沈黙している。オレはなんとも言えない気持ちになる。何かリアクションして欲しい。

「無言は肯定ってことで決定な」

それさえも彼女は反応しなかった。疲れ切った顔をしている。