【和/泉/三/月】3日後の行方【ア/イ/ナ/ナ】 (ページ33)

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「いらっしゃいませ」

　オレ達は昔の、大正ロマン風なカフェに入った。人はそれほど居なくて、話合いをするには丁度いい雰囲気だ。案内された奥にあるボックス席は、タバコの臭いとコーヒーの匂いがソファに染み付いている。お店全体的にもコーヒーの香りが漂っている。

　店員さんが持ってきてくれた、紅茶とフルーツケーキを一口ずつ口に入れる。こう、実家とは違うケーキを食べるのも勉強になって良い。ただ、こんな気まずい雰囲気の中で食べたくはなかった。和気あいあいとしたムードで食べたい。

「ショートケーキってなんでショートって言うの？」

　彼女は不意に言った。夏の暑さに染み渡る冷たい紅茶で心が落ち着いたのだろうか、ケロッとした顔をしている。相変わらずマイペースらしい。

「え、あぁ、うん」

　カフェに入って最初の会話が、予想だにしなかったものなので戸惑った。しかしオレの方も何も考えてなかったので少し助かったような気もする。彼女はフルーツケーキのキウイを口に放りこんだ。

「ショートっていうのは……」

短い、という意味の他に(クッキーやパイが)サクサクする、ボロボロするっていう意味もあるのだ。

「ケーキはサクサクしてないよ」

　彼女は純粋な子供のように質問を問いかけてきた。口の横にクリームをつけているのが可愛いとさえ思う。いや、駄目だ、真面目な話をしに来たのだ。

　……確かに今の日本のケーキはサクサクはしていない。だが、元々、アメリカではショートケーキの生地はクッキー状だったのだ。その『ショートケーキ』が日本に渡ってきたとき、日本ウケするようにスポンジケーキにしたのが、いまのショートケーキらしい。

「へぇ、さすがケーキ屋の息子」

　自慢げに言い終えると、パチパチと小さな拍手が贈られる。少しだけ恥ずかしくなった。今はこんな話をする予定じゃなかったのに。

　次はこちらが質問を問いかける番だ。冷たい紅茶が固唾を飲み込むように固く、喉元を嚥下した。