綺麗な花に棘がある。【茅ヶ崎至】 (ページ47)

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嬉しそうにそう言って、談話室を出て行ってしまった監督さんの背中を見てため息が出た。にっこりと笑った卯木さんが、「よかったな。」と言うから、……え？何が？

『どういうつもりですか…』

「後輩の応援してあげようかと。」

『応援？何の話ですか？』

「何って、」

目の前に影が落ちて、卯木さんが私の耳元へ唇を寄せた。「茅ヶ崎のこと好きなんだろ。」と、私にしか聞こえないくらいの小さな声で言うのと同時にダイレクトに伝わる吐息に背中がぞわりとした。

『は！？何言ってるんですか！？』

「え、違うの？」

『違うに決まってるじゃないですか！！！』

「おかしいな。」

『………おかしいのは卯木さんの頭では？』

「は？」

『すみません。』

何を言いだすんだろう、この人は。ただ私をからかってるだけ？卯木さんが変なことを言うから、何故か冷や汗が止まらなくなってしまう。

ここから逃げたい。自分の家に帰りたい、一人になりたい。とりあえず、卯木さんの元から逃げようとしたら、頭の上にずっしりとした重みがかかった。今度は何！？

「泊まるの？」

『茅ヶ崎さん！？重いんですけど！』

「ちょうどいい腕置きがあったもんで。」

『はぁ…！？』

「泊まるらしいよ。監督さんの熱意に負けたんだよな。」

『本当に泊まらなきゃ駄目ですか？私…帰りたいんですけど……』

「たまにはいいんじゃない？なぁ、茅ヶ崎。」

「……そうですね。せっかくなら泊まりなよ。」

ここに私の味方はいないんだ。そんなの最初からわかっていたけど。未だに私の頭の上に腕を置いている茅ヶ崎さんに何か言ってやろうと見上げれば、ちょうど目が合う。

_______「茅ヶ崎のこと好きなんだろ？」

『………………』

「え、何？」

絶対に卯木さんのせいだ。卯木さんに言われたその言葉に、柄にもなく動揺して戸惑っている私とは裏腹に、私の頭の上で茅ヶ崎さんと卯木さんがマインドバトルをしているなんて、想像もつかなかった。

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