綺麗な花に棘がある。【茅ヶ崎至】 (ページ19)

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『失礼しま…………』

「あ」

「あ゛！？」

部屋の扉を開ければ、私なんかに目もくれず身を乗り出すようにテレビ画面を必死に見つめている茅ヶ崎さんの姿が。

隣にいたヤンキーくんが、漏らした「あ」の声に、やっとこちらを向いたと思ったら

「さいっあく」

「至さんドンマイ。」

「つか、負けてるし…………クソすぎ……」

はーーーー、と聞いたこともないような音量のため息をついた先輩が、見たことのないような顔をしている。うわー、なんか。見ちゃいけないものを見たような気分だ。

前髪をちょんとピンで留めていて、手にはコントローラーを握っている。テレビにはよく知らないゲームの画面が映し出されていて、そのすぐそばに置かれているローテーブルにはコーラやポテチが散乱していた。

『なるほど。』

「なるほどとは？？？？」

『いやー、いいネタを手に入れました！』

「……………」

「至さんのこの姿見て引かないんすか？」

『うーん、まあ、驚きはするけど…茅ヶ崎さんくらいの人ならこのくらいの裏表があって当然というか。』

「現実的だな。」

ソファに座ってノートパソコンをいじっている卯木さんが鼻で笑ってそう言った。コントローラーを投げ出した茅ヶ崎さんが、じーっと私を見つめるから。なんだなんだ。

「会社の奴らには言わないで。」

『私が言うように見えますか？』

「見えるから言ってんだけど。」

『酷』

「ま、大丈夫じゃない？この子なら平気そう。」

『卯木さん、私、弓原です。』

「あー、はいはい。そうだった。」

「(この人は物忘れ酷いのか？)」

こうして、茅ヶ崎さんの弱味(？)を握った私は、もう二度と茅ヶ崎さんのお世話にはならないように気をつけようと意気込んで、お世話になった寮を出た。

「…駅まで送ってくけど。」

『え、いいんですか？…………って、別にそんなことしなくても私言いませんよ？』

「口止め料ってことで。」

『信頼ないなあ。』

「いいから、乗った乗った。」

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