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「眠くて仕事にならないんなら仮眠室にでも行ってくれば?」
『大丈夫ですよ。飲み終わったら戻ります。』
「…井原、課長が呼んでた。」
「…お、おう。」
コップを戻しにきた茅ヶ崎さんが、給湯室に入ってくる。井原さんは、茅ヶ崎さんが来てすぐに出て行ってしまったけど…やっぱこの二人あんまり仲良くなさそうだな。茅ヶ崎さん、井原さんの名前も覚えてなかったし……。
「本当に眠そうだな。」
『う〜ん』
「寝癖酷いし。」
『あ、そうだ。寝癖直さなきゃ…』
「待って、動かないで。」
『え?』
前屈みになった先輩が、私の髪を撫でる。その拍子にふわりと香る匂いにドキッとして顔を上げれば、至近距離で目が合う。
この瞳の色………あれ、どこかで……。思わずじっと見つめてしまい、少し困惑したように「な、なに?」と聞かれてしまう。
『あ、いえ……直りました?』
「いや、もう少し。」
撫でられる感覚が気持ちよくて、目を閉じた。あー…大人になって頭撫でられることなんてそうそうないから変な感じだ。この前の茅ヶ崎さんみたいにこのまま倒れたら笑っちゃうや。
『…茅ヶ崎さん?』
頭を撫でる感覚が消えて、黙ったままの茅ヶ崎さんを不思議に思い名前を呼んでみる。目を開けようとした瞬間。
ふに、と柔らかい感触が頰に触れて思考が停止する。鮮やかマゼンタの瞳がゆらりと揺れて細まる。
その感触が、キスだと気づいたのは、「目が覚めた?」と耳元で甘やかな声が聞こえてきた時だった。
『…な、な……な…!?』
「隙ありすぎ。」
艶やかに笑った茅ヶ崎さんがそう言って、給湯室を出て行く。そんな後ろ姿を眺めながら、頰に触れてみれば柔らかな唇の感触が残っている気がした。
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作者名:しあ | 作成日時:2019年6月27日 22時