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『さっき会ったばっかの
人に話す事でもないし、俺の話なんか
興味ないかもしれないけど…ちょっと
話しても…いい?』









不思議と この時彼の話を

聞いてみたくなった。









「…うん。話して。」









『…さんきゅ。…実は、俺…仕事で
自分の進む道に限界を感じてて、正直
息苦しいくらい 煮詰まってたんだ。』









橋の欄干に肘を掛けて…

セーヌ川に映る月を見ながら話す彼









「……」









『ずっと、目標にしてきたものを
一つ一つ、クリアしていくうちに
いつも同じ事を ただ繰り返してる
だけのような…気がしてさ。』









「うん。」









『好きな事を 仕事にできて、あの
ステージに立てる人間が、ほんの
一握りだって事、頭じゃわかってるし
自分の単なる わがままなのかも
しれないけど…』









「うん。」









『それが義務になってくると…全然
楽しくなくて…俺がこんな気持ちで
やってて、お客さんを楽しませる事
なんか、できんのかなってさ。』









義務になると…楽しくない…って

すっごく…わかる気がした。









『そんな時…RUNAの写真に出会えた
おかげで、インスピレーションが湧いて
忘れかけてた、作る楽しさを、また
思い出す事ができたんだ…』









「アタシの…写真で?」









『…ああ。だから、キミに会えたら
絶対に言わなきゃって…思ってた。』









「……?」









『キミの写真がなかったら、俺は…
あの時…歌う事を辞めてたかも
しれない。今日まで、月を撮り続けて
くれて ありがとう。』









自分が 好きで撮り続けた写真に

ありがとうなんて言われたのは…

初めてだった。

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作者名:ひろみ | 作成日時:2020年7月10日 17時

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