【黒バス】藍色のバスケ〔C〕【男主】 (ページ46)

今日:11 hit、昨日:3 hit、合計:330,456 hit

ある女使用人の忠誠2 ページ46

.

ナッシュ様、大我様、シルバー様がよく屋敷を訪れるようになった。
どこか諦めと憂いが感じられた若様も、彼らの前では『子供』だった。

若様の環境は特殊であり、危険で。
自分の環境が恵まれているものだった、そう思わされることも少なくはなく…。

祥吾様が加わられて大我様が日本に行かれた直後、若様の限界が来てしまった。
刺客のストレスと背負わされる重責に、ご自身を追い込まれてしまったのだ。

日に日に顔色が青白くなる若様を見て、私たち使用人は無力感で悔しかった。
若様のテリトリーは白亜色に染められ、専属護衛や使用人も付くようになった。

専属に志願した私たち使用人如きでは、どうにもならない。病院に搬送される若様を見て、涙が止まらなかった。

若様のテリトリーにある幾つもの部屋。私室のソファーで笑談する皆様の姿がない一週間は酷く虚しく、仕事に身が入らなかった。

「今戻った。」

屋敷へ帰られた若様は変わった。
憂いが消えて瞳の中の諦めは取り払われ、私たちにも笑みを見せるようになった。

何かを抱えようとすればナッシュ様たちと共に。新たに加わった修造様は素早く打ち解けていた。

心身ともに成長され、出会った頃の小さな背は私を越えた。類を見ない美丈夫へとなられた主に、私は今も昔も弟のように世話をしている。

「若様、いちご大福です。休憩されては如何ですか？」

「別に平気だ。」

そう言いながら、書類から目を離さずにいちご大福の乗った皿へ手を伸ばすのを叩いて阻止する。

「……おい。」

「ナッシュ様に『休憩時には書類を奪え』と申し遣っておりますので。」

にこやかに書類を奪い、お茶と和菓子を差し出せば「アイツら…」と言いながらも食べ出す若様。
ふふふ、知っているんですよ。若様がナッシュ様たちに弱いこと。

「…美味い。」

ボソリと言われた言葉にガッツポーズ。実は若様が和菓子好きと知って、数年前から猛特訓したんです。
今や私のスイーツの腕は屋敷のコックも脱帽レベルですからね！

「…書類の上から三つ目のホチキス留め。」

これは”見ろ”の指示だと理解した私は言われた通りに書類を捲る。
書かれていた内容を見て固まった私は、声を振り絞った。

「これ、は…」

「お前の親の会社からの取り引き申請だ。」

あっけらかんと言った若様に、我が目と耳を疑った。

.