22 ページ22
今朝机の上に置かれていた、弁当箱を手に彼女を探す。
(なんで、今日一日来ない。)
いつも当たり前のように、教室の前にいるはずだった彼女の姿は、今日はすれ違ったあの一瞬と体育館のみだった。
「必要な時に限って居ない」
小さくため息をついた。
探せる所といえば、自分が知っている中では教室、美術室を探した。
"いつも"あったはずの姿がないことで、自分が焦燥に駆られているようだった。
(……しょうがない。)
踵を返して他の場所を探そうと、手始めに音楽室に足を踏み入れた。
「……何それ。」
目に入ったのは探していた彼女だった。
こんな探していたことも知らずに彼女は鍵盤が下がるほど、思いっきり寝ていた。
左に流している髪が彼女の頬に掛かっている。
「……」
それを無意識に手で払う。
無防備な寝息をたてる姿に先程払った手が熱くなる。
「解からない。Aが、何を思ってるかなんて。」
初めて名前を口にし、更に、払った髪を後頭部へ流す。
サラサラと流れていき、隠れていた耳があらわになる。
「っ……」
前々から察していたはずなのに、思わず息を呑んだ。
それは自分の中では、普段、目にしない補聴器が目の前で彼女の耳に掛かっていたから。
それを見てまた、思う。
(Aのことが何も解らない。)
「僕を落とすくらいなら、君のことをまず教えてよ。」
彼女の全てを知りたい、と思う自分にはもうとっくに呆れていた。
笑顔しか見せない、裏を笑顔で隠し続ける姿は引っ越した女の子そのもので、"もしかしたら"と思ってるのも。
(馬鹿なのは僕だ。)
スッ…と流れる彼女の涙を拭う。
そして、片手で頬を包む。
手よりも小さい顔が仄かに温かく、また、手に熱が集まる。
指の腹で彼女の唇の輪郭をなぞる。
『キスしてよ。もちろん、私が告白した後でいいよ』
自信ありげに告げた、を約2ヶ月前の約束をが脳裏に浮かぶ。
(あぁ、ほんっとバカ)
やるせなくなって、彼女を背にした。
すると、後ろの方でズルズルと彼女が起きる音がした。
僕は彼女の方向を振り向く。
「……泣いてないよ」
小さく自分に言い聞かせるように彼女は呟いた。
彼女は僕のことに気づいていないようで、言葉は鍵盤に落とした。
「…ねぇ」
気づいてほしくて、声を掛けた。
すると、彼女は肩をビクッとさせ、目を丸めた。
それが可愛いと思ってしまうのはもうバカとしか言いようがなかった。
11人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ユーナ | 作者ホームページ:yuna187.tobio912-8h1i9q@docomo.ne.jp
作成日時:2016年5月10日 1時