今日も社畜は探偵社で嗤う

・ ページ39

夢心地だった意識が覚醒される。
ズキズキズキズキズキズキ
結束バンドで締め付けられているかのような痛み。

そのまま忘れてしまえば楽だろう。
だけど、忘れたくない。忘れちゃ駄目だ。この記憶は、忘れたら駄目な物だ。

大した確証もないのに、そう本能が叫んでいる。

＿そうだ。彼が誰かを考えてたんだ。

中学校の教室が歪んだ。コーヒーにミルクを入れてかき混ぜたみたいにぐるぐる渦巻いている。
そんなことも気にならないくらいに、集中している自分がいた。

＿そう。赤目の彼。

誰だったっけ？

ピキッ、と音を立てて教室の机にヒビが入る。
あっという間にそれらが一斉に全て割れた。
破片が飛び散ったかと思ったら、跡形もなく、最初から何も無かったかのようになくなる。

＿＿黒髪で、スーツの上に緑のパーカーを羽織ってて……。

窓ガラスが一斉にヒビが入って割れた。
破片は机と同様、空気に溶けるように消えていく。
あ、と呟くと、掲示物と自分が座っている椅子以外がまたガラス細工を落としたみたいに割れて、消えていく。

昔の記憶が消えていったのに、ずっとここに居たいと願ったのに、そんなことがどうでも良くなるくらいに気になる。

あの現実に戻りたくはない。だけど、彼を忘れたくない。

そう思うと、ビキッ、とどこかにヒビが入った。

＿＿＿そうだ！彼は幽霊だ！

バアン。五月蝿く音を立てて黒板が割れた。
矢張り黒板に張り付いている磁石や「課題」「まとめ」の磁石式カード、黒板消し、チョークの一本に至るまで跡形もなく消えた。

ビキビキビキ。
それと同時にヒビは「どこか」、じゃなく「全体」になる。平面も立体も関係が無く空中にもヒビが入っているようにもおもえた。
記憶が崩れているんだ。

頭の痛みはぐんぐんと増していって、ぐわんぐわんと脳みそが頭の中で回って居るみたいだった。
でも、この行動をやめない。

脳みそがこのままひっくり返っても思い出すんだ！

右手を頭に添えながら、左手の拳をギュッと握りしめた。

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