【短編集】少しの幸せを貴方に【2j3j】 (ページ40)

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あ、もしかして失敗したかな…

「なんでそんな悲しそうな顔するの」

「Aのことよく知ってるつもりだったんだけどね」

ふわっと笑ってまたいつもの笑顔に戻る

普段のふざけた表情と違って落ち着いた綺麗な顔

そういうのずるいよ、泣きそうになっちゃうから

さっきとは打って変わってしんみりした空気。またこの感じ。

最近になって嫌になるほど体感した。

目に映る人みんな悲しそうな顔をするから嫌い

私は笑顔なのにね

外からはまだ降り続く雨の音が聞こえる

「ねえ、そろそろほんとに帰らないと」

「明日も来るよ」

「明日はここにいないよ流石に。家行かないと」

「帰らないと、でしょ。Aはあの家の子供なんだよ」

「そうだねぇ……」

じゃあ、気をつけて帰ってね

帰り道が大変だと改めて気づいたのか早足で階段を降りていく藤士郎

気をつけるも何も、私は雨に濡れないから

さて、そろそろ本当に帰らなくてはいけない

「おはよ〜」

「え、朝来るなんて珍しい」

土日を挟んで月曜日

青空と白い柔らかそうな雲が見えるよく晴れた日の朝

いつもは登校してくる生徒たちの騒がしい声が聞こえてくるだけで、めずらしい薄紫色の髪が視界に入ることなんてない

「今日、放課後来れないからさ」

「そっか」

読みかけだった本を家から持ち出してきた

膝の上で開いていたそれを栞を挟むことなく閉じる。栞を挟んでも意味が無いから

「正直まだ信じられないんだけど。だってちょっと前まで普通にカフェ行ってショッピングして…」

「明日になったら全部忘れてね。そういう約束。」

藤士郎の話を遮った。いつもならなんで遮るんだとガミガミ言ってくる彼も今日ばかりは大人しい

「……わかってる」

しばらく間を開けて聞こえた言葉

絶対守らないなこの人なんて思っても口には出さない

もう少しで朝のHRが始まる時間。藤士郎ともお別れ。

「ひとつだけ答えて。どうしてあの日、Aは」

────────────飛び降りたの

藤士郎はその言葉を発しなかった

その後の言葉を口にしたくなかったのか、HR開始を知らせるチャイムがなったからなのか

言いたいことを言えなかった悔しそうな顔をして階段を降りていく。この背中を見るのもこれで最後

私も今日くらいはちゃんと教室で授業を受けて、友達のそばで笑っていようかな

クラスメイトの顔を忘れることがないように