【短編集】少しの幸せを貴方に【2j3j】 (ページ33)

今日:18 hit、昨日:62 hit、合計:174,769 hit

▼ ページ33

今日は机の消毒のために使っている布巾を水洗いすること

壁に向かって設置してある流し台の前に立つと彼が見えにくい

合間合間に覗き見ると部屋に入った時と同じ体制で違う教科の参考書を開いていた

仕事が終わりまたソファーに近づく

「A俺の事見すぎ」

「バレてた？」

笑って会話を流し、椅子に置いていた荷物を持つ

「もう帰るの？」

「うん。仕事終わったしね」

参考書に集中していた彼を邪魔しないようにとしていたのに

「先輩さ、名前で呼んだこと気づいてるよね？なんで無視するの」

本日2度目のその顔は私が弱くなると知っていてやっているのだろうか

気づいていたし寧ろそれでいいからわざとスルーしたのに。黛くんにとっては嫌だったらしい

「気づいてるよ。別に呼び方なんて気にしないし」

「へー、そう」

「灰って呼んでって言いたいんでしょ」

「別に」

そうなの？じゃあ黛くんでいいか

と呟くと思い通りにならなかった小さい子供のように不貞腐れた顔をする

黛くんも案外顔に出るもんだなと思いながらからかいがいのある可愛い後輩に口角が上がった

「そういえば灰くんの誕生日はいつ？」

呼び方に抵抗なんてものはないからこう呼べと言われたらそう呼ぶまでだ

「………9月28日」

「なんでそう嫌そうなの。誕生日嫌い？」

誕生日嫌いな人なんているのかと思うけど

長い沈黙の後に答えてくれた誕生日を忘れないようにとスマホにメモる

「だって、先輩と同い年に絶対なれないじゃん」

つまり私よりも先に生まれていれば1つ学年の違う私たちは一時でも同い年になれたのにということだろう

そんな、別に1年なんて変わらないのに

ガラッと扉ドアが開く音がして少し歳をとった方の養護の先生が入ってくる

「Aさんどうしたの？」

「あー、他の子の代理で委員会の仕事を…」

「そうなの。ありがとね。終わったなら早く帰りなさい」

なんとなく、苦手な理由が伝わるかと思うのだけど

私たちが話している間に灰くんはテーブルに向かって参考書を開き直していた

そういうとこちゃっかりしてる

「じゃあ失礼しましたー！」

廊下に出てドアを閉める

スマホの電源を入れると通知欄の1番上に灰くんからのメッセージが表示されていた

"誕プレ渡しそびれた"

いつかの当番の時に交換した連絡先はその日から更新されていなかったため、今回が２回目のやり取り

そのメッセージに可愛らしいスタンプを返すかちゃんと文章で返すか悩んだのはここだけの話