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いかないで ページ2

何人かの人がその境目に立ち、肌に触れるか触れないかのところで行ったり来たりと走り笑いあっている

それの何が楽しいのかわたしには分からなかった




蝉もまだ鳴かない爽やかな風が吹くこの季節

もうあと1ヶ月もすれば今眺めているこの場所も沢山の人で溢れ、出店やら海の家やらで綺麗な砂浜が汚されるんだろう


海開きもされていない海岸にいるのは映えを重視する女子高生や近所に住むお爺ちゃん


スマホを片手にキャッキャと高い声で笑う女子高生は一緒にいる友達の笑顔なんて見ておらず、その冷たい液晶を通した偽りの映像を見ていた



砂浜の周りをぐるりと囲む人工的な白い壁に腰を下ろしその光景を見る



今日も人がいるなら無理かなんて何度目かの言い訳を作りながら





「いた」


「見つかっちゃったか」



落ち着く低い声が遠い世界へ行っていた頭を現実へと引き返した

適当な理由を探してまだわたしがわたしを捨てないことを知っているのに君は律儀に見つけてくれる



「帰るよ」


「もうちょっといちゃダメ?」


「はぁ、」



なんで灰くんはそこまでしてわたしを助けようとするの


その質問には答えず、静かに左隣に座った彼の夕日に照らされた横顔になんとも言えない気持ちになった



「そこまでしてくれなくていいんだよ」

「だっておかしいじゃん。なんでそんなことのために努力するの?ほっといてくれればいいのに」



綺麗な景色に似合わない、落ち着きのない声を出して笑う

そんな自分に嫌気がさす


同じなんだ。自分も。さっきの女子高生も。




「どうして笑うの?」


「どうして?だって理由なんてないじゃん」


「努力に理由は必要?」



努力を笑われたことに怒りもせず、表情も変わらず、ただ地平線のその先を見つめる君


"努力に理由は必要?"


理由もなく努力ができる人間は少ないと思う

その少ない人間の中に黛灰は存在しているのか



だって私はその努力が出来なくて諦めようとしているんだもの



「帰る」



キラキラと太陽が反射して光る海面が眩しすぎて、でもそれをわたしの真っ黒な心は容赦なく飲み込んでゆく

こんな気持ちになりたくなくてそれに背を向けた



「A」



学校での姿からは絶対に想像出来ない、手を差し出す灰くん

その手を取ってしまうわたしも心のどこかではこの手をずっと離したくないと思っているのだろうか



駅のホームで手を繋ぎ並んで待つ様子は他のカップルのように、わたしたちの仲もそう見えているのかな


それに悪い気はしなかった

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めろんぱん(プロフ) - ののんのさん» コメントありがとうございます!無事完結させることができました。応援ありがとうございました🙇‍♂️ (2022年9月4日 22時) (レス) id: 76b5c4bb1a (このIDを非表示/違反報告)
ののんの(プロフ) - 作者様の書くお話好きです!!更新頑張ってください! (2022年8月31日 2時) (レス) id: 5b7085a619 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:めろんぱん | 作者ホームページ:https://twitter.com/meronpann_yume  
作成日時:2022年7月28日 21時

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