あの子が幸せになるまでの記録。 (ページ7)

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倉庫の中でページ7

───『ぅ、ぐっ、い゛…っ』

全身の軋み、喉の焼けるような痛みで目が覚めた。いや、実際吐いた胃液で焼けているんだけれども。

昔を思い出すうちに眠ってしまったらしい。

庭の埃や砂だらけの倉庫の隅に横たわっていた。今日もこっぴどく蹴られたな…

しばらく、近くの赤いマットを見つめる。

…そういえば、監督が来週PSG本部の移籍したばっかの選手が来るって言ってたっけ。エ…何だっけ、エム…バペ？選手…?
凄いらしい、知らんけど。
本部のお偉いさんのお目に叶えば17歳以上の選手はフランス代表になれるとかなんとか。しかも、ある一定の条件を満たせば女でも、特別枠で男性リーグに混ざることができるらしい。

ちょうど17歳じゃん、ラッキー。お金いっぱい貰えんのかな。独り立ち出来るかな。

一刻も早く、プロになりたい。大好きなサッカーで世界一になりたい。世界一にもなれば、お金に困ることも、病院に行けなくてただ忍ぶことも無いんだろう。

人々の尊敬、賞賛の声はどうでもいい、裏切られることの無い愛が欲しい。

愛された記憶なんて無く、思い出すのはあの日の事と、怒り狂う硬い拳。

神も天使も世界も私を見捨てた。

自分自身で、何とかするしか無い。

『"…っし"』

震える身体をトタンの壁で支え、立ち上がり、ボールを、蹴る。

蒸し暑い、初夏の夜。