あの子が幸せになるまでの記録。 (ページ15)

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同じく着替えを済ませたのだろう、ワックスを落としきれていない頭がドアから覗いた。

「"なんの話?"」

「"パリはもう初雪が降るらしい"」

「"すご、流石早いな、俺雪好き"」

ほう、とエリックさんが顔を上げた。

「"ウィンタースポーツか何かおやりで?"」

「"雪に囲まれ育ったので。スキー出来ますよ"」

雪には、あまり良い思い出が無い。

「俺もスキーができる」と、スーパースターとの共通点を見つけたエリックさんが嬉々としてはしゃいでいるのを、どこか遠くの事のように見つめていた。へえ、と何だか会話に混じることが出来なくて、なんとなく明日のギチギチスケジュールに目を落とす。

トレーニングのメニューを目で追っていると、話題はもう変わったのだろう、「そういえば」と大谷さんが思い出した様に、丸い目でこちらを見た。

「クレールさんSNSやんないの」

『何でまた急に』

「チームメイトが、やって欲しいとか言ってた」

「コイツにやらせたら何やるか分からないので一生ダメですね」

君はいつから日本語喋れるようになったんだい、エリックさん。

『なんかやりたいんだけども』

「インスタから始めては?PSGの人もやってるんじゃない?」

「一平、変なアドバイスをするな…あとAも目を輝かせるな！！！こら、スマホをしまえ！アプリダウンロードすんな！！！！」

なんと一平さんと既に仲良しになっていたらしい、ぎゃぁぎゃぁ騒ぐエリックさんを横目に、アプリをいれる。
画面に現れたピンクを基調とするアイコンに、満足気に頷いた。

「俺のインスタフォローしてよ」

『一平さん登録？ってどうやるんですか』

「セールス相手に役立ちそうな程のスルースキル」

『仮に登録したとしてもフォローしませんけど』

そりゃそうだ。世界はこの男に騙されていると言っても過言ではない程の性格をしているが、仮にも日本が誇るスーパースターなのだ。フォローなんてした挙句、世間が騒ぐのは至極当然のことであって。

「じゃあ電話番号教えて」

じゃあの意味が分からない。

『イタ電する未来が見えるので遠慮しときます』

「どうせLINEもカカオもやってないだろうから電話番号にしといてやったんだけど」

『なんでそんな上からなんですかね……』

面倒くさくなり、帰る準備の一環としてトイレに行こうと椅子から立ち上がる。

『"早く帰ろうよ、トイレ行ってくる"』

「"車準備しとく"」

「"じゃあ俺らも帰ります、また2週間後に"」