【WT】硝子の靴は捨てた (ページ9)

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「ボーダーに高いトリオン量の射手(シューター)がC級にいる」

そんな噂を聞いたのは私が遠征に行く1週間前の事だ。だが、そんな噂も私はすぐに忘れた。1週間後に始まるレイジさん、桐絵、私の玉狛第一での初めての遠征。玉狛の皆が亡くなって以来の遠征となる。

「小南、A。今回の遠征の任務は？」
「トリガーの鹵獲」
「それは城戸さん達のやり方でしょ？今回玉狛(うち)は同盟国の戦争に加勢」
「両方だ。俺たちはまず現地に着いたら……」

誰一人欠けないために私たちは昼夜問わずに連携の練習や作戦の見直しをした。

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遠征に行くにあたって遺書が書く必要がある。家族、友だち、恋人と大切な人へ最期に残すメッセージ。レイジさんや桐絵はすぐに書けていたが、そんな人がいない私には遺書を書くってのは酷な話で書くに書けなかった。

「……白紙でいっか」

白紙でも提出した時にバレなければイイ話だ。真っ白な紙を三つ折りにして"遺書"と書いた白い封筒に入れてから私は林藤さんに提出しに行こうとすると、丁度部屋に帰ってきた迅くんと会った。迅くんは私が手に持ってる白い封筒を見てから、「明後日からだっけ、遠征」と訊ねたのでコクリと頷く。

「緊張してる？」
「まさか。これぐらいで緊張なんかしないよ」
「はは。それは心強いなぁ」

あの争奪戦以来からS級になった迅くんと会う機会なんて減ったからこうやって喋るのが久しく感じる。迅くんを視ると、如何やら黒(ブラック)トリガーを手に入れてからボーダーの為に色々と動いているっぽい。

「迅くん。無理しちゃ駄目だよ」

そう言うと迅くんは目を大きくさせてから苦笑を溢す。そして私の方に近づいて肩に頭を置いてきた。

「A。小南を守ってほしい」

迅くんは未来を視たのだろう。生憎私は近い未来しか視えないので遠征先で如何なるかなんて知りもしない。行ってからのお楽しみってやつだ。

ポンポンと背中を優しくを叩き、私は「任せてよ」だけ伝えた。弱々しい力で迅くんは私の首に腕を回して抱き締める。
　

迅くんは神さまにでもなったつもりなのか。
私たちは未来が視えるだけの唯の人間だっていうのに。