やさぐれ姉さん。3【SVT】

やさぐれ姉さん（??） ページ48

？side

あの後病室にいた三人は一度家へと帰っていった。

メンバーを連れてまたすぐ来るからと一言だけ残して。


『…そろそろ、起きてもいいんじゃない？』

『バレてましたか。』


そう言って酸素マスクやケーブルなどをベリベリと剥がしながら起き上がるのは先程まで死体のように眠っていた女性。

稀代の天才女優、瀬木A。


『本当にいいの？抗がん剤治療受けなくて。』

『いいんですよ、私は演技に生きて演技に死ぬ女です。』

『本人がいいならいいんだけどね？』


滲み出る脂汗から何となくわかる。

無理して起きているし、痛みも気持ち悪さも全て我慢している事くらい。

それでも彼女が望むから。


『さぁってと、俺はもう一眠りでもしようかな？』

『良いんですか？逃げ出しちゃいますよ？』

『俺の過失じゃないから。』


そうして先程と同じ体勢になる。

溢れ出る涙を隠すように。


『…ありがとうございます、吉沢さん。』

『気を付けてね。』


僕の大好きな、世界で一番素敵な君。

彼女が窓を開けたと同時に、香りが病室中を包み込む。

存在を感じられなくなった頃、涙を拭くようにそっと顔を上げると、もうそこに彼女の姿はなかった。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


病室を抜け出す。

痛む頭痛と、今にも吐き出しそうな気持ち悪さ。

震える手足。

身体という身体に鞭を打ってタクシーを捕まえ、あのコンビニに向かう。

久しぶりに見た店長の姿は少しだけ白髪が増えていた。


「…え、セギ……ちゃん、かい？」

「お久しぶりです、店長。」

「あぁ…元気そうで何よりだよ。」


そこから軽い小話をしてタバコと猫のエサを買って公園に向かう。

ふてぶてしい黒猫が出てきた時用に餌を置いて海に向かう。

なけなしの現金も底を尽きた。

前と違って気候も暖かいし、チラホラと近所の人が海水浴や海藻を拾いに来ている。


「いやー！波瀾万丈な人生だった！」


口から煙を吐き出しながら海を見つめながらそう笑う。


「体が持つ限りはどこまでも歩いていけそうだ。父さん達が迎えに来るまでに色々見とかないとな。」


スパァ、と肺中を煙で満たしながら呟いた。



この日以降、エスを見かけた人は誰一人居ないという。

行方不明と報道されたが遺書が見つかったことから自害の判断をしたと現地メディアが報道。

日本に限らず、世界中がその訃報を聞き、悲しみ、嘆いていた。

生前撮影した映画は本人の意向により上映を決定、興行収入は80億円を突破した。

エピローグ→←・

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す