short story I

16 ページ46

振り返ってやっと見えたグクの顔



ゆっくりと確かめるように



唇を啄ばんでみる。




そういえば…


自分からのキスって初めてかも





今度は唇をゆっくり上に移動させて額に、





これって、同情なのかな…





『……』





おでこの次は頬に
その次は鼻のあたまに…





ひとつ、またひとつ順番にキスを落としていく。




嫌がってる……訳じゃない、よね？




現に受け入れてるみたいだし…
っていうか




されるがまま状態だけど…




でも、なんだか唇にするのは…
ちょっと躊躇うな、




別に今更っちゃ、今さらなんだけど…







してる最中の貪るようなキスはあっても、


こんなにゆっくり、静かなキスって




したことないし…





『……してくれないの？ここには…』





そう言ってゆっくりと目を開けたグクが


ちょんちょんって、私の唇に指で触れる




「あ…え、と…その…」




『もしかして……ちゃんとしたキスは、好きな人と
とか…思ってる？』





図星…





『…申し訳ない、って？』




「…う、ん」




きっと…グクだって



本当にグクを好きな人から、してもらいたい…でしょ？




『…なら…俺を好きになってよ』




「え、」




『でも…今だけ』





…演じろって、こと？





「…いいの？」





そんなんで傷ついた心は…癒えるの？




でも




『…俺の、お願いなんだから』





グクがそれでいいなら




「…う、ん」




断る理由も私にはないから



『あと…たくさん言って…好きって、



たくさん俺を求めて？』









「っ…あ、まっ…て」




『だ…めっ、待たない…っ』





いつも通りって表現も変だけど…



やっぱりあのあと抱かれた私。





いつもと同じように、ちょっとSっ気を纏った
グクにいいように翻弄されては




快楽の波がなんども押し寄せてくる。





『っ…ほら、ここでしょ…気持ちい、の』





「っあ…ダメ…ま、だ」





頭の中なんて既に空っぽで
さっきから目の前はチカチカしっぱなし…





だけど、どんなに意識が朦朧としようとも





「っ…く、る」





身体中の筋肉が収縮を繰り返すから
息をするのさえ辛くても





「っグ…ク…す、き」




『っ…もっ、と…もっと…っ言って』






それはまるで…
ひっそりと唱える呪文のよう





「グクっ…好きっ…」






だって





『…っは…』






グクがその言葉に反応することは
一度もなかったから

17→←15

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す