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2人から手厚い歓迎を受けた翌日、用意されていた黒いスーツを身にまとって身なりを整えた。
「おはよう。……昨夜はよく眠れたか?」
「はい、おかげさまで。……なんか、あのハーブティーを飲んだら一気に眠気が来て……」
「そうか、良かったな。……後で周に言っとくよ」
「えっ、なんで周に……?
……ま、まさかあのハーブティー……!」
……あの日の記憶が脳裏をよぎる。
相変わらず、あの子の“愛情表現”はどこかズレている。
そんなことを考えつつ、エレベーターで下の階へと向かう。ド派手なエレベーターに目をチカチカさせながら、目的地の20階へ到着した。
「か、カシラ……! おっ、お疲れ様です!」
「あぁ、お疲れ。
……悪ぃけど、アイツ呼んでくれねぇか? ほら、いつもそこのデスクで事務やってる……」
「……榊木です。
そう言って後ろから現れた男性は、髪はパーマがあてられており、両耳にはいくつものピアスが空いていた。
……その反面、スーツはきっちりと着こなされているので、どこかちぐはぐな感じがした。
「榊木か……悪ぃな。
話はいってると思うが、今日から当分こいつの世話を見てやってほしい。頼めるか?」
兄さんがそう尋ねると、彼は無言のまま頷く。……そして、まるで何かを諦めたように俯いた。
「……あ、ええと……猪瀬Aです。
よろしくお願いします、榊木さん」
「……は?」
彼は心底驚いたようで、半ば放心状態になりながら私を見つめていた。
……日本人にしては少し明るい瞳の色。けど、カラコンを入れているようには見えない。おそらく生まれつきのものなのだろう、と思いつつ、じっと見つめ返す。
「……驚いた、猪瀬家の人でもジョークとか言うんすね」
「えっ……だって初対面ですよね?」
私がそう言った瞬間、彼はどこか諦めたように瞳をかげらせた。……その瞳の奥には、私への“憎しみ”さえも宿っているように見えた。
「……そうっすよね。覚えてるわけないっすよね、俺みたいな下っ端の顔なんて」
「え? あっ、あの私……」
「執務室、案内します。……着いてきてください」
「ちょっと榊木さん……! 話、最後まで聞いてくださいよ」
反射的にスーツの裾を引っ張る。終始俯いていた彼の瞳が、ようやく私の姿をまっすぐ捉えた。
「……その、驚かないで聞いてほしいんですけど……
実は私、記憶喪失なんです」
「…………は?」
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ねのあ(プロフ) - べるーがさん» あーッ!!返信ありがとうございます、! 読了後速攻でフォローさせていただきました……!!供給が少ないオタクとして共に更新していきましょう……!!🙏 (3月10日 18時) (レス) id: 919a6d5cdf (このIDを非表示/違反報告)
べるーが(プロフ) - ねのあさん» わーーーありがとうございます!! 私も初コメきてテンション爆上がりしてます⤴⤴ 更新頑張るのでこれからも応援していただけると嬉しいです……!! (3月10日 18時) (レス) id: a87c674b3c (このIDを非表示/違反報告)
ねのあ(プロフ) - めちゃくちゃ好きです……!ずっと新田姉弟の話を探していたんですが、ようやく見つけられました……!救われました、QOLが爆上がりしてます……これから応援させていただきます……!! (3月9日 23時) (レス) @page37 id: 919a6d5cdf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:べるーが | 作成日時:2023年4月19日 22時