35 ページ39
……どのくらい眠っていたのだろう。血で掠れた視界の端で、僕の身体を運ぶ人影を捉えた。
……もうほとんど力は残っていなかったが、なけなしの力を振り絞るようにして抵抗する。
「……っ、離せ……!」
「……大丈夫、私は兎崎家の人間じゃないよ。
色々あって、君を助けに来た」
「助ける……? 誰だ、お前……」
「自己紹介は後。……ひとまず、ここから逃げるよ。
今だけは、私を信じて。……君のお姉さんのためにも」
……姉さんのため。その言葉を聞いた瞬間、一気に身体の力が抜けていく。……こんなことを言うのは今さらかもしれないが、どうやら僕はこの言葉に弱いらしい。
姉さんの顔を思い浮かべながら、おもむろに瞼を閉じた。
「……着いたよ」
その言葉にゆっくりと瞼を開けると、僕の身体はホテルのベッドの上に寝かされていた。
……白衣を着た長髪の女性が、僕の方を見下ろしている。姉さんほどではないが、綺麗な人だと思った。
「……早速、治療を始めようか」
そう言って、彼女はテキパキとした手つきで怪我を治していく。……深かった傷がどんどん小さくなり、最終的には見えなくなった。
「……よし、終わり。次は診察だね」
「……逆だろ、普通……」
「仕方ないじゃん、君さっきまで死にかけてたんだからさ」
「……お前、色々すっ飛ばしすぎだよ。初対面なら、先に名乗るのがマストだろ」
「……確かにそうか。まぁ、相手の名前を聞きたいなら先に名乗るのがマナーだけどね。
初めまして、呪術高専京都校医者の綾瀬弥生です」
……無意識なのかは分からないが、嫌味っぽい言い方についイラッとしてしまう。……しかし命を救われた手前、強く言い返せないのが歯がゆかった。
「……猪瀬周。それより、先に僕の質問に答えろ、綾瀬。
なぜ僕を助けた?」
「君のお姉さんに頼まれたんだよ。弟を助けてくれって」
「……! 姉さんが……それで、今どこに?」
「……いののんなら、まだシンシンと一緒にあの家にいるよ。お兄さんを助けるってさ」
……その言葉を聞いた瞬間、僕は反射的に彼女の胸ぐらを掴んでいた。
「なんで止めなかったんだよ……! 僕も一緒に……」
「ダメだよ、怪我治ってないんだから。……今の君が行ったって、足手まといになるだけだよ」
その言葉からは、悪意が微塵も感じられない。……信じられないくらい嫌味な言い方だが、どうやらわざとではなく無意識の産物らしい。
19人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ねのあ(プロフ) - べるーがさん» あーッ!!返信ありがとうございます、! 読了後速攻でフォローさせていただきました……!!供給が少ないオタクとして共に更新していきましょう……!!🙏 (3月10日 18時) (レス) id: 919a6d5cdf (このIDを非表示/違反報告)
べるーが(プロフ) - ねのあさん» わーーーありがとうございます!! 私も初コメきてテンション爆上がりしてます⤴⤴ 更新頑張るのでこれからも応援していただけると嬉しいです……!! (3月10日 18時) (レス) id: a87c674b3c (このIDを非表示/違反報告)
ねのあ(プロフ) - めちゃくちゃ好きです……!ずっと新田姉弟の話を探していたんですが、ようやく見つけられました……!救われました、QOLが爆上がりしてます……これから応援させていただきます……!! (3月9日 23時) (レス) @page37 id: 919a6d5cdf (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:べるーが | 作成日時:2023年4月19日 22時