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「……っはぁ、はぁっ……ごめん、渋滞はまって遅れた……」
「いえ、タイミングばっちりです。
急いで来てくれはってありがとうございます、綾瀬さん」
「……あ、綾瀬さん……!?」
私がそう言い終わるや否や、彼女はツカツカとこちらに向かってくる。……そして、状況が分からずその場に硬直している私の頬をつねった。
「いたたたたっ、痛いです綾瀬さん!」
「……なんで、もっと早く電話しなかったの? 怪我したら連絡しろ、って言ったのに。
……いい、いののん。君は記憶喪失だから、人の『死』にはあまり馴染みがないのかもしれないけど……人って、結構簡単に死ぬんだよ」
……そう言って、彼女はいつになく真剣な眼差しで私の目を見つめた。新田くんもどこか感慨深い表情をしているのは、以前の教師のことを思い出しているからだろうか。
「…………すみません。
……綾瀬さん。弟のこと、よろしくお願いします」
「もちろん。言われなくてもそのつもり。……そんなに心配しなくても大丈夫だよ。治せない怪我じゃないから」
私がそう言って深々と頭を下げると、彼女は私の頭をポンポンとなでて、そのまま周の身体へと向き直った。
「……一応、俺の術式は掛けてあります。こっちのドアを通れば裏口に出るんで、お願いしますね」
「分かった。……じゃあ、私は近くのホテルに向かうから。2人も、目的を果たしたらすぐ来ること。……いいね?」
その言葉に大きく頷く。……彼女は満足そうに笑ってから、周の身体を抱えて早足で部屋を後にした。
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「……すみません、新田くん。
さっきの言い方、大人げなかった……ですよね」
……術式の性質上、怪我人を相手取ることが多い彼にとって、『死』というものは身近なものなのかもしれない。誰かを助けられなかった経験だって、1度や2度じゃないはずだ。
……そんな彼だからこそ、冷静になって、撤退するという選択肢を提案してくれたのだろう。
「いえ、気にせんといてください。……正直、自信なかったんやと思います。俺の術式は戦闘向きやないし、先生のこと守りきれへんって。けど……
それでも、あなたは俺が守ります。絶対、死なせません」
……そう言って差し出された手は、手袋越しにも分かるほどに震えていた。その震えを止めるように、私はその手を強く握り返した。
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ねのあ(プロフ) - べるーがさん» あーッ!!返信ありがとうございます、! 読了後速攻でフォローさせていただきました……!!供給が少ないオタクとして共に更新していきましょう……!!🙏 (3月10日 18時) (レス) id: 919a6d5cdf (このIDを非表示/違反報告)
べるーが(プロフ) - ねのあさん» わーーーありがとうございます!! 私も初コメきてテンション爆上がりしてます⤴⤴ 更新頑張るのでこれからも応援していただけると嬉しいです……!! (3月10日 18時) (レス) id: a87c674b3c (このIDを非表示/違反報告)
ねのあ(プロフ) - めちゃくちゃ好きです……!ずっと新田姉弟の話を探していたんですが、ようやく見つけられました……!救われました、QOLが爆上がりしてます……これから応援させていただきます……!! (3月9日 23時) (レス) @page37 id: 919a6d5cdf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:べるーが | 作成日時:2023年4月19日 22時