2【猪兎抗争編】 ページ4
｢寒っ……｣
外を出た瞬間吹き荒れる冷たい風に身体を震わせる。
……この間までは暖かかったのに。既に芽吹いてしまった植物たちも、今にも凍えてしまいそうだ。
そんなことを考えながら歩いていると、反対方向から塩崎さんが歩いてくるのが見えた。
｢お疲れ様です。……これから授業ですか？｣
｢はい、仕事もほとんどやり尽くしてしまって……まだ少し早いんですけど、もう行こうかなって｣
｢……そうですか。なんというか、流石Aさんって感じですね｣
塩崎さんはそう言って、呆れにも近い微笑をこぼした。
……心なしか、いつもより表情が柔らかい気がする。
｢ふふ、なんか嬉しそうですね。……もしかして、何かいいことでもありました？｣
｢……まぁ、少し。けど、別に大したことじゃないので｣
そう言ってまた表情を緩ませる。……塩崎さん、変わったな。最初会ったときは、まるで氷みたいな人だったのに。
｢……Aさん、少しだけ動かないでください。
そう、そのまま……｣
｢えっ……し、塩崎さん？｣
おもむろに顔を近づけられ、思わず声が裏返った。
……彼の顔が今までにないくらい近く感じて、気付いた時にはギュッと目をつむっていた。
｢……よし、取れた。桜、髪に付いてましたよ｣
もう春ですね、なんて言いながら微笑みを浮かべる塩崎さんを他所に、速まる心臓の鼓動を必死に抑えていた。
びっ、くりした……
いきなり顔を近づけてくるから、てっきり……
｢……Aさん、どうかしました？｣
｢あっ……！ いや、なんでもないです！
じゃあ私、教室行くので……｣
｢Aさん｣
そう言って、あの日のように左腕を強く掴まれる。
……あの日とは別の意味で、心臓がバクバクと音を立てているのを感じた。
｢呼び方……塩崎じゃなくて、澪なんで。
……仕事中は仕方ないですけど、せめて2人きりのときくらいは名前で呼んでくれませんか｣
｢……っ、あははっ｣
真面目に名前呼びを要求する姿に、思わず吹き出した。
……あんなに名前を嫌がっていた塩崎さんを思うと、少し感慨深いような気もする。
｢すみません……なんか、可愛くてつい｣
｢可愛いって……そんなこと言うの、Aさんだけですよ。
本当、変な人ですよね……じゃあ俺、事務室戻るんで｣
……そう言って事務室へ向かう彼の手には、先程の桜の花びらが握られていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 19人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ねのあ(プロフ) - べるーがさん» あーｯ！！返信ありがとうございます、！ 読了後速攻でフォローさせていただきました……！！供給が少ないオタクとして共に更新していきましょう……！！🙏 (3月10日 18時) (
レス) id: 919a6d5cdf (このIDを非表示/違反報告)
べるーが(プロフ) - ねのあさん» わーーーありがとうございます！！ 私も初コメきてテンション爆上がりしてます⤴⤴ 更新頑張るのでこれからも応援していただけると嬉しいです……！！ (3月10日 18時) (レス) id: a87c674b3c (このIDを非表示/違反報告)
ねのあ(プロフ) - めちゃくちゃ好きです……！ずっと新田姉弟の話を探していたんですが、ようやく見つけられました……！救われました、QOLが爆上がりしてます……これから応援させていただきます……！！ (3月9日 23時) (レス) @page37 id: 919a6d5cdf (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：べるーが | 作成日時：2023年4月19日 22時
