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「……」
「…………」


襖が閉じられ、二人の間に気まずい沈黙が流れる。……そのあまりの雰囲気の変わりように、東京校にいたときと同じように接していいのか分からずにいた。


……この沈黙を先に打ち破ったのは、彼女の方だった。塩田さんは襖の近くに立ったまま、不意に口を開いた。


「……目、もう覚めたんですね。
常人なら3日は寝たきりになるはずなんですが」


「あはは、はい……前にも2回ほど飲まされてるので、さすがに耐性がついたというか」


「……そうですか」


塩田さんはそう言ったきり、また黙ってしまった。……いや、今は菫さんと呼んだ方がいいのだろうか。


「えっと、その……座らないんですか?」


「……お気になさらず。私はそういう身分じゃないので」


「身分……ですか」


「……あなたの家はどうだか知りませんけど、兎崎家(うち)ではこれが『普通』なんです。さっきのを見ていて分かったでしょう?」


……菫さんはそう言い終わると、どこか諦めたような表情で深くため息をついた。


「……そんなことより、若と……菖様と、何の話をされてたんですか」


「……少しだけ、身の上話を聞かせてもらいました。あまりいい返しができないのが申し訳なかったですけど……」


「そうですか。……あの方が自分から話をするなんて、随分気に入られているんですね」


「そう……なんですか?」


「ええ。……あなたが自分の話をしてくれないので、こっちから話すしかないっていうのもあるんでしょうけど」


……そう言えば、私がトリップ(?)してきたことって、塩田さんには言ってなかったんだっけ。

“話さない”んじゃなくて、話したくても“話せない”……そう打ち明けたくなる気持ちを、ぐっと飲み込んだ。


「……あはは、そんなことないですよ。
それを言うなら、塩田さ……菫さんだって、そうじゃないですか。……本名だって、全然教えてくれないし」


「……本名は、特に隠しているつもりはなかったんですけどね。誰かさんが勝手にあだ名を付けたせいで、いつの間にかその呼び方が定着しただけで」


「す、すみません……」


「……っふふ、別に怒ってませんよ。
前にも言ったでしょう? ……あなたのことは、割と気に入っているんです」


彼女はそう言って柔らかく微笑んだ。……その笑い方は、私の知っている『塩田さん』そのものだった。

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ねのあ(プロフ) - べるーがさん» あーッ!!返信ありがとうございます、! 読了後速攻でフォローさせていただきました……!!供給が少ないオタクとして共に更新していきましょう……!!🙏 (3月10日 18時) (レス) id: 919a6d5cdf (このIDを非表示/違反報告)
べるーが(プロフ) - ねのあさん» わーーーありがとうございます!! 私も初コメきてテンション爆上がりしてます⤴⤴ 更新頑張るのでこれからも応援していただけると嬉しいです……!! (3月10日 18時) (レス) id: a87c674b3c (このIDを非表示/違反報告)
ねのあ(プロフ) - めちゃくちゃ好きです……!ずっと新田姉弟の話を探していたんですが、ようやく見つけられました……!救われました、QOLが爆上がりしてます……これから応援させていただきます……!! (3月9日 23時) (レス) @page37 id: 919a6d5cdf (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:べるーが | 作成日時:2023年4月19日 22時

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