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「……じゃあ、次はこれお願いします」


榊木さんは無表情のまま、隣のデスクで山積みになっていた書類を手渡した。……さっきまで驚いていたのが嘘みたいだ、なんて思いつつ書類を受け取る。


「っとと……分かりました。
……隣の方は、今日お休みなんですか?」


そう聞いた途端、その場の空気が一瞬で凍りついた。
……聞いてはいけないことを聞いてしまった、と瞬時に理解したが、後の祭りだった。


「はは……ただの休みならよかったんすけどね」


「えっ……」


「こいつ、4日前に死んだんです。シャブ中に頭撃たれて即死。

……記憶喪失だから分かんねぇのかもしれませんけど、この業界じゃこれくらい日常茶飯事っすよ」


「……そう、ですか」


……それ以上の言葉が出てこない。そんな私を気にする素振りも見せず、彼は言葉を続けた。


「笑っちゃいますよね、こんな簡単に死んじまうなんて。
……俺らの命の重さなんて、きっとその程度しかないんすよ」


「そんなこと……」


「ありますよ。
……現に、あんたと俺じゃ天と地ほど違うでしょ」


彼はどこか諦めたように俯きながら、そう呟いた。


「……そんなこと思ってるの、多分榊木さんだけですよ」


……そう言うと、彼はようやく顔を上げた。大きく見開かれた黒目が、私の目をまっすぐ見つめている。


「少なくとも、私はそうは思ってない……と思います」


「……随分煮え切らない言い方っすね」


「あはは……すみません。記憶をなくす前のことは知らないので」


「ま、そうっすよね。……てか変な気回さなくていいっすから、さっさと仕事始めてください」


半ば追い払われるようにしてデスクまで戻った。
……もしかして、また怒らせてしまっただろうか。


そう思いつつ、受け取った仕事に取り掛かったのだった。



「……さん、姉さんってば」


「うわっ、周……!」


「ふふ、お疲れさま。念の為見に来たけど、案の定まだ仕事してたね。……もうとっくに定時すぎてるよ?」


そう言いながら、朝に飲んだのと同じハーブティーを差し出した。


「こ、これ朝の……!」


「あれ、気付いちゃった? ……だって姉さん、ああでもしないと寝てくれないんだもん」


……反省の色どころか、悪いことをしたという自覚さえなさそうだ。

ため息をつきつつ周りを見渡すと、“畏怖”とでも言うべき感情を抱いた組員たちがこちらをじっと見つめていた。

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ねのあ(プロフ) - べるーがさん» あーッ!!返信ありがとうございます、! 読了後速攻でフォローさせていただきました……!!供給が少ないオタクとして共に更新していきましょう……!!🙏 (3月10日 18時) (レス) id: 919a6d5cdf (このIDを非表示/違反報告)
べるーが(プロフ) - ねのあさん» わーーーありがとうございます!! 私も初コメきてテンション爆上がりしてます⤴⤴ 更新頑張るのでこれからも応援していただけると嬉しいです……!! (3月10日 18時) (レス) id: a87c674b3c (このIDを非表示/違反報告)
ねのあ(プロフ) - めちゃくちゃ好きです……!ずっと新田姉弟の話を探していたんですが、ようやく見つけられました……!救われました、QOLが爆上がりしてます……これから応援させていただきます……!! (3月9日 23時) (レス) @page37 id: 919a6d5cdf (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:べるーが | 作成日時:2023年4月19日 22時

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