こんにちは、いんちょうせんせい。 ページ1
あの先生は、忘れられなかった。
『…？どうしたの？お腹空いた？』
『そうかそうか。ゆっくり聞くから、落ち着いて』
『ほら。こっちおいで』
_____あの先生が、大好きだった。
「何をしている。こっちへ来い。七十八番」
嫌だ、嫌だ…！
僕を七十八番と呼ぶな。
あの先生は、僕を七十八番だなんて呼ばない。
しっかりとした、暖かく、優しい音色で
『敦くん』って、呼んでくれる。
嗚呼、あの先生に会いたい。
今ではもう、名前を呼べる立場ではないけど。
――――――――――――――――
小鳥の鳴き声が響く、春が終わり、夏に入る頃。
一人の少年が廊下を駆けていた。
「(せんせい…)」
院長室、と、プレートがかけられた部屋の前で、少年は止まる。
「(いんちょうせんせいはいないよな…？)」
こっそり、こっそりと、少年は扉の前を通る。
そして、隣の部屋の扉を開ける。
「あっ。せんせい！」
『ん？あぁ。敦くんかぁ。いらっしゃい』
「エヘヘ、おじゃまします…」
少年は、この先生と云われる青年を気に入っていた。
少年は、青年の名を知らない。
まず、気になりもしなかった。
『ん。今日はどんなご用件で？』
青年が少年を手招きする。
「…ん！」
少年は、青年の手をとった。
そして……
ぽすり。
『へ？』
撫でて欲しかったのか、少年は、自身の頭の上に、
青年の手を置いた。
『〜っ…』
「せんせ？」
『可愛いなぁっ！んもう〜！』
「きゃぁ〜！」
青年が少年を撫で回す。
二人で笑いあって、撫であった。
部屋の扉が開いていることも知らずに。
「何をしている。貴様達」
青年と少年の血の気が引いた。
「ぁ、ぇ…？」
少年の瞳には、涙が浮かんでいる。
『院、長…先生…』
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作者名：しらす。 | 作成日時：2022年4月7日 23時
