なんて今更なことを ページ1
通り一遍の注意を監督らに受け、
それを自分の口から部員たちにも伝え、
それでもさりとて家へ帰るには
あまりにも収まりがつくものじゃなかった。
向かう先が部室以外ない、そんな自分の
選択肢の狭さを笑う余裕など到底ない。
向かった先で蛍光灯をつける。
壁や天井がよりいっそう白々として
無人の部屋は見知らぬ場所のようだった。
ここに、どうしても持ち帰りたいものがあった。
右手の平をぼんやりと見つめながら
先刻の出来事を浮かべる。
最後にボールに触れた感触が、帰りの
バスに溢れんとばかり満ちていた沈黙の
重さがなんとも生々しく蘇り、
思わず強く手を握った。
泣いているものは誰一人いなかった。
それが唯一の救いであり、それでいて
そんなものなんの救いにもなりは
しなかった。
頭蓋骨の奥が、肋骨の内側が、腹の底の底が、
今もなお粘ついて沸騰しているのを感じる。
あと一つ何かが足りなかった
優勝旗にもトロフィーにも
何が足りなかったのか、何が悪かったのか
今となってはもう知るよしも
知る気力もないがやはり
思ってしまう。
掴めそうだったのに、と。
「失礼します」
不意に背後から声がかかり、
握り締めていた手をほどいた。
「どうした」
爪の痕がくっきり残る手の平を
見られないようそっと隠す。
どうしてあんなにも手を強く握ったのか。
キリキリと手の平が熱を帯び始める。
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作者名:季節の野菜を添えて。 x他1人 | 作成日時:2017年10月22日 2時