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事故で被害にあったのは及川だけだったと言う。
なんとも皮肉なもので、コンビニに突っ込んだ車の運転手は持病の発作でぶつかる前に即死していた。
運転手の亡骸をのせ走った車はバス停の向かいにあるこのコンビニを選んだのだ。
周りが暴走する車に気づき逃げ戸惑う中、足を捻っていたせいだろうか、及川だけ逃げることができなかった。
"意識不明の重体"
それはあまりにも淡々とした、あまりにも恐ろしい事実だった。
目が覚めた及川自身の強い要望で及川が入院したことを知っているのは家族や教師以外では私と岩泉に限定された。
学校では及川は引っ越した、という話になっている。
バレー部は主将……いや、元主将の方が正しいのだろうか?
あいつがなんにも言わないで居なくなるわけがないだろう、などといって狼狽えていた。
が、監督があいつは一人で抱え込むやつだから辛くて誰にも相談することができなかったのだと伝えると、心当たりがあったのだろうか、誰一人言葉を発する者はいなくなってしまった。
その事はバレー部内には勿論のこと学校全体にも広がっていた。
及川という男がこんなにも人々から信頼されている、ということをみせられないのが唯一の心残りだ。
話は及川が目覚める前に遡る。
事故から数日後、及川の意識が戻ったとの情報が入り誰もがこれから回復するだろう、と思っていた。
しかし何時までたっても及川には回復の様子はおろか、回復の兆しすら見られず及川は自身の身体の制御ができなくなっていた。
そう、及川の身体にはリハビリの余地すら残されていなかったのだ。
そんな寝たきりの及川には徐々に床ずれができはじめ、その生活を始めると同時に人工呼吸器なるものを着けるようになっていた。
自ら息をする力は今の及川にはなく、この首もとから伸びた管のような機械を頼らないと一分もせずに死ぬ、そう医者は告げた。
鼻まで覆われる呼吸マスクじゃない分まだ顔が自由だよね
と、喉から送られる空気で発する声はとても小さくいつも掠れた響きを持っている。
岩泉は今日は用事で来ていない。
及川の入院当初から今日にかけてまで岩泉は大分口数が減ってきている。その事が及川は気がかりだったようで、同時に私も焦燥感に駆られた。
岩泉はいないのだ。
岩泉は今日、ここに来ないのだ。
その事を好機とでも捉えたのだろうか、
その掠れた響きをもつ声が、たった今私に告げたのだった。
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季節の野菜を添えて(プロフ) - てーずさん» いやいや、私なんて全然… コメントありがとうございます、これからも見てくれたら嬉しいです (2018年12月22日 18時) (レス) id: 78bf690c70 (このIDを非表示/違反報告)
てーず - 読んでるうちにすごく胸が苦しくなりました。言葉では言い表せないくらい感動して、気づいたら涙を流していました。こんな素晴らしい作品をありがとうございます。 (2018年12月21日 23時) (レス) id: 48b68baf55 (このIDを非表示/違反報告)
季節の野菜を添えて(プロフ) - カトラリーさん» ありがとうございます、携帯水没しませんでしたか?笑 コメント返すのほんと今更ですいません… 水没してなかったらまたこの作品見てくださいね、コメントありがとうございます (2018年12月20日 0時) (レス) id: 78bf690c70 (このIDを非表示/違反報告)
季節の野菜を添えて(プロフ) - ラムティンさん» そんな私には勿体無いお言葉を… 作成日からかれこれ一年ちょい経ってたんですが、まだ読んでくださる方がいただなんて感激です ありがとうございます、すごく励みになります。 (2018年12月20日 0時) (レス) id: 78bf690c70 (このIDを非表示/違反報告)
ラムティン(プロフ) - 凄く胸が締め付けられて苦しくなりました。後から少しずつ涙が溢れてなんとも言葉にしづらいです。久しぶりにこんなに感動する作品を拝見しました。本当にありがとうございました。 (2018年12月14日 3時) (レス) id: 1aff84d8a5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:季節の野菜を添えて。 | 作成日時:2017年9月12日 23時