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ため息交じりのAの声が、俺の首元でくぐもって聞こえてくる。
「ねぇ、そいつ、あいつのこと嫌いな上に、Aのことが好きだったんじゃない？」
『分かんない。嫌いだったのかなぁ。仲良さそうに見えたけどね。それも分かんない。そういうのが当たり前の世界だし、一回しか会ったことないから。でもすごく優しかったよ？』
「そっか」
『これで終わるなんて思わないし、もっと酷くなるかも知れないし、あの人が今度は標的になる可能性があるのは、なんていうか……望んだことじゃないけど、少しは私のこと思ってくれて、気にかけてくれてた人があの世界にいたって分かっただけでちょっと嬉しかった……。負けるもんかって必死に地面に足つけて、ギリギリで踏ん張ってたから』
「ごめん。俺ももっと話聞けば良かった。けど、聞いちゃいけないのかなって思ってて……迷ってた。ごめん」
頭から耳にかけて撫でると、くすぐったい〜って小さく笑う。
こうやってただAを抱きしめていられることが、俺にとってすごく大事なことなんだって思った。
もっと、Aの話を聞いて
もっとAを大切にしないと……。
絶対に離れていってほしくないから。
『ううん。いいよ、全然。分からないでしょ？かずくんは。私ですら分からないんだから。分からないことを、分からない者同士が話してたって何の解決にもならないもん』
「だとしても、Aの気持ちにはもっと寄り添ってあげられたはずじゃん」
『一緒にムカついたり辛くなるの、嫌だったの。可哀想だなって思われるのも、精神状態不安定だなとか、面倒な女だなって思われたくなかった。かずくんにね、好きだから嫌われたくなかった……。ごめんね』
「あぁ、もぉ……。我慢すんなよ、そんなこと思わないから」
『うん、ありがと』
「これからは聞くから。根掘り葉掘り(笑)」
『ふふ、うん。聞いて……？聞いて欲しい』
俺から身体を離して、見せてくれた顔は
さっきよりずっと晴れ晴れていて、可愛くて
久しぶりにこんなに可愛く笑うAを見たかもしれないと思った。
「あいつがAを守らなかった分、これからは俺が全力で守るから。見えない敵からも、櫻井からも」
『また櫻井先生？(笑)』
「あいつ、隙あらばAのこと誘うって言ってきたんだ。ムカつくやつだな！」
『あ、かずくん、そう言えば、櫻井先生に私たちのこと言ったの？』
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作者名：鈴
| 作成日時：2020年11月12日 20時
