アネモネの花束【ars/J.M】 (ページ8)

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『聞いてます？』

「聞いてるよ」

『酷くないですか？』

「酷いよ？Aの良さをそいつは全くわかってない。素直なところとか、可愛いところとかな？うん。お前にはもっと良い男がいるはず。な？俺とか、俺とか？だからそんな怒るな。お前は笑ってた方が可愛いから」

『は？』

「え？」

『いや、何の話し？』

「え？相手の男がひどいって話だろ？」

『まぁ。でもどさくさに紛れて自分がいい男アピールしました？酔ってるんですか？お水頼みますか？もう帰りますか？』

酔った頭で言ったことなんて、数秒前でも思い出すのが難しいけど

「俺そんなこと言った？(笑)」

『言いましたよ！どんだけ自分好きなんですか』

笑いながらビールを飲み干して、時間も時間だし、お開きにすることにした。

『美味しかったー！ごちそうさまでした』

「はい、どういたしまして」

『元気出た！月曜日からまた頑張ります！ありがとうございました！』

「いいえ。お前は笑ってた方が良いよ」

『んっふふ、はーい』

2人でタクシーに乗り込んで、先にAを送る。

まぁまぁ酔った身体に、車の揺れが心地いい。

シートに身体を預けて微睡んでいたら、左肩が重くなった。

「おいー、寝るなよぉ？」

『ん～、着いたら教えてくださぁい』

「はぁ？」

俺も流石に飲みすぎて眠たいし、すぐ着くから、肩に頭を預けてきたAをそのままにすることにした。

ぼんやりと肩に顔を擦り付けてくる感覚

微かに聞こえる寝息

酔って体温が高くなったからか、いつもより髪から香る爽やかな甘い匂い

それらと共に、左半身にぐっと重さを感じた。

流石に重くてAを見ると、ちょっと口を開けて無防備に寝てる。

「ちっ……可愛い顔で寝てんなよ。俺じゃなかったら食われてるぞ」

『ぅぅん……』

「おい！もう着くぞ！起きろ」

『……ぃった！』

声をかけたけど、全然起きそうになかったAの額を小突いてやる。

額を抑えて蹲るAに改めて声を優しく掛けた。

「起きなさい。着いた」

『ぅーん……』

「ほぉら」

『松本さん……タクシー代』

「払っとく」

『すみません……ごちそうさまでした』

そう言いながらタクシーを降りるAの足取りは覚束なくて

ヒールで危ないと思って、俺もタクシーを待たせて、肘を支えた。