アネモネの花束【ars/J.M】 (ページ7)

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ほんとにそう思ってんのかよって突っ込みたくなるほど、わざとらしく言ってくるけど

いつものAに戻ってきた気がして、少し俺の心が軽くなった。

こいつは、こっちの顔のがよく似合う。

「俺はもともと超優しいの。お前が気付いてないだけで」

俺も安心して、軽口を叩いてビールを半分くらいまで飲んだ。

『ふふ、知ってますよ。松本さんがいつも不器用な私の先回りして、作家さんに私のことを伝えておいてくれたり、デスクワークもわかりやすく説明してくれたり。松本さんが上司で良かったです。ありがとうございます』

「え？」

『え？何ですか？』

「いや……まぁうん。してたけど。作家さんのとか気付いてないと思ってた」

『気付きますよぉ。先輩のこと、よーく見てますもん。いつも、先輩みたいになりたいなぁって思います』

ふふふと照れ笑いをしながら、またビールを豪快に飲んで、つまみを食べるA。

別にこうやって気付いて欲しくてやってたわけでもないし

俺も先輩からしてもらってたことを、Aにしてただけで

感謝されるなんて思ってなかったから、ちょっとびっくりした。

「お前……俺みたいになりたいの？」

『なりたいですよぉ。後輩思いで、優しくて、厳しくて、でも変に先輩風吹かせてるわけじゃなくて。幸せ者です、私は。彼氏と別れても、こうやって先輩に励ましてもらえて。入社してからずーっと松本さんに憧れてます』

何の屈託もない笑顔で、俺にそう言ってくれるから、急に気恥ずかしくなってくる。

普段から、こういうことを平気で口にするタイプの人間だって分かってたけど……。

「なんか……可愛いな、お前」

酒の席だけど、こうやってちゃんと面と向かって真剣に言われたことがなかったし

まっすぐ俺を見つめて、言ってくるから

迂闊にもほんの少しだけ、初めて1人の女として

めちゃくちゃ可愛いなって本気で思ってしまった。

『えー！今更気付いたんですか？私の魅力に。おっそ！』

でっけぇ声でビールのおかわりを店員に伝えながら、悪戯に笑って言う。

1秒前の感情、撤回しようかな(笑)

それからというもの、なんか意識しちゃった俺は

アルコールが入った頭だからか、思考が低脳になったのか

Aのいちいち言動の裏を読んでしまって、一人悶々としてしまった。