アネモネの花束【ars/J.M】 (ページ47)

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Aに振られたにのは、力なく微笑んで、背を向けて歩き出して

2人で何も話さないまま、にのの姿が見えなくなるまで見つめた。

見えなくなると、自然と顔を見合わせる。

「……言えたじゃん」

『ん』

不安と少し晴れ晴れとした表情が混ざったAが、何度か頷きながら返事をした。

「もう誘われないな」

『ん。ね、松本さん』

「ん？」

『ありがとうございます。隣に住んでるって二宮さんに内緒にしてくれて』

深々と俺に頭を下げながら言う。

「別に。お互いそっちのが面倒じゃないだろ」

『……はい』

俺は別にバレても良いけど

Aはそう思ってるから、あえてバラす必要なんてないし。

小さなため息を漏らして俯いて、一仕事終えた後のようなA。

「さっ！家飲み家飲み。飲むぞー！」

気分と雰囲気を変えるために、わざとでっかい声で言って

袋を引っ張って、マンションに入って行く。

『わぁ！急に引っ張ったらびっくりします！』

「はいはい。ビールが温くなる～。グラスも冷やしたいから早く！」

『もぉ！』

エレベーターが来るのを2人で待って、乗り込む。

「あー、腹減った！」

『早く飲みたーい』

俺にピッタリくっついて、待ち遠しそうな顔で見上げて言ってくる。

あー、可愛い、可愛い、可愛い。

可愛すぎんか、俺の後輩。

階数の表示が順に光っていくのを、口を少し開けて、間抜けな顔で見てるAの横顔が

とにかく可愛くて、一度帰ると言っていたけど

そのまま連れ込みたい気持ちを抑えて、予定通り手を振って一旦解散。

「んじゃあ後ほど～」

『後ほど！』

急いでビールとグラスを冷やしてから

軽く机の上の仕事の書類とか、郵便物を片付けて

掃除ロボットのボタンを押してから、シャワーを浴びる。

風呂上がりのAは見慣れてはいるけど

ベランダ越し、しかもちょっと暗がりの中でしか見たことなかったから、この家にいるってなると

変な緊張と、高揚感、動揺……

俺だって、Aに見られてるわけだから

今更気にしていても仕方ないのに

ドライヤーで髪を乾かしながら、鏡に映る格好すら

もうちょい良いものを着た方がいいのか？と迷ったり

朝より少し伸びてしまった髭も剃り直すべきか？と顎を触ったり

余計なことばかり考えてしまう俺。