アネモネの花束【ars/J.M】 (ページ38)

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「なぁ？なるべくこれから毎日一緒に仕事行かね？朝からお前のそんな泣きそうな顔見たくない」

『でも……』

「今のお前に断る理由なんてねぇの」

『……はい』

「分かれば宜しい」

そう言って、俺はAの頭を優しく撫でた。

会社の最寄り駅に着くと、2人して言葉数少なく歩き出す。

『松本さん』

「ん？」

『ありがとうございました』

「いいえ。当たり前のことしただけ。まぁ本当はあいつ、ぶん殴ってなりたかったけどね。朝からめんどくせーことになりそうだからやめといた」

俺の言葉にふふふと、ぎこちなく小さく笑う。

ったく、痴漢野郎、さっきまでの幸せ返せよ。

何でAの悲しそうな顔見ながら出社しねぇといけねぇんだ。

「おい！そんな顔してっと、MRの合コン失敗するぞっ！」

『いったいなぁ、もぉ！』

仕方ないんだけど、めちゃくちゃ落ち込んでるから思いっきりAの頭を掴んでやった。

本当は優しくポンポンしたかったけど、今は恥ずかしいからやめる。

『力加減、馬鹿じゃん！』

「うるせぇな(笑)ほら、行くぞ！」

『んー！』

気にするななんて言えないから。

けど、ちょっとでも気を紛らわせて欲しいから。

あとさ。

待って！と俺を追いかけながら、むくれた顔をするお前も最高に可愛いよ。

『ごめん、今日行けそうにないわ。うん。いい人いたらまた紹介して？ん、ごめんね』

職場に着くなり、自分のコーヒーを入れながら電話で今日の合コンを断った。

今日のために塗り直したネイル

今日のために買ったタイトスカート

それに合わせたヒールと鞄

こなれた感じの大きめのアクセントが付いた髪留めで纏めた髪

別に行っても良かったんだけど、気持ちが急に乗らなくなって、断った。

行けば楽しいし

久しぶりに会う友達もいる

美味しいご飯があるのも知ってる

……けど、やめた。

外勤から帰ってきて椅子に座って、ふぅ！と一息吐いて、仕事に集中する。

松本さんの下で働かなくなって、明らかに増えた仕事量。

手際の悪い私には、まだまだ頑張らないと、終わらない量。

新人作家さんたちが送ってくださった小説を読んだり

作家さんたちの話を聞きつつ、新しいお話を作っていただいたり

連載の話や、次回作を書ける目処を立てたりして。

毎日が目紛しく始まって、終わっていく。

大変だけど、それよりも楽しい。

「おい！」

『いっ！何ですかっ？！痛いなぁ」